小脇差こわきざし)” の例文
はげしくいって、キッと小脇差こわきざしに手をかけて立ちどまると、甲虫かぶとむしのような茶色ちゃいろ具足ぐそくをつけたさむらいが、いきなりおどりあがって左右から二本のやりをつき向けた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抜き打ちに敵の小手こてに斬りつけた。あいにくと少年のことで、一尺八寸ばかりの小脇差こわきざししか差していない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼らが祖先から受けついで来た武士だけが何の役にも立たなくなったのだ。それでも小脇差こわきざしを腰につけ、す足に草鞋わらじをはき、着物の尻をはしょってやって来たのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
卷上れば天一坊はあつたけからざる容體ようだいに着座す其出立には鼠色ねずみいろ琥珀こはく小袖こそでの上に顯紋紗けんもんしや十徳じつとくを着法眼袴はふげんはかま穿はきたり後の方には黒七子くろなゝこの小袖に同じ羽織茶宇ちやうはかま穿はき紫縮緬むらさきちりめん服紗ふくさにて小脇差こわきざし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
老年になってからは、君前で頭巾ずきんをかむったまま安座することをゆるされていた。当代に追腹おいばらを願っても許されぬので、六月十九日に小脇差こわきざしを腹に突き立ててから願書を出して、とうとう許された。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
伝八郎は、内匠頭が刃傷につかった小脇差こわきざしを取り寄せて手に持った。当然な人間の弱点を考えるのである。これを抜く時と抜いた後の心理とを比較すると、思いやられるものがある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出てもどる頃漸々東がしらみ出し雨も小降こぶりに成たる故浮羅々々ぶら/\戻るむかうよりしりつぺた迄引端打ひつはしをり古手拭ふるてぬぐひ頬冠ほゝかぶかさをも指ずにぬれしよぼたれ小脇差こわきざしをば後ろへ廻し薄氣味惡うすきみわる坊主奴ばうずめが來るのを見れば長庵故かさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)