ゆるやか)” の例文
後身をゆるやかにしてさびしき路を行き、いづれも言葉なく思ひに沈みてゆたかに千餘の歩履あゆみをはこべり 一三〇—一三二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのこびある目のほとりやうやく花桜の色に染みて、心楽しげにやや身をゆるやかに取成したる風情ふぜいは、にほひなどこぼれぬべく、熱しとて紺の絹精縷きぬセル被風ひふを脱げば、羽織は無くて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あながちにそれを足そうともせず、かえって今は足らぬが当然と思っていたように、かず、騒がず、優游ゆうゆうとして時機の熟するをっていた、その心の長閑のどかさ、ゆるやかさ、今おもい出しても
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
男はタキシード、女は大概ガウンを羽織り、伯爵夫妻とでもいうようなゆるやかな足取りで通って行く。次に誰の眼にも莫連女コケットと知れるき出しの胸や腕に宝石の斑張りをした女が通った。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勿論もちろん思惟においては知覚の場合よりも統一がゆるやかであり、その推移が意識的であるように思われるので、前にこれを以てその特徴として置いたが、厳密に考えて見るとこの区別も相対的であって
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
手足ゆるやかにしてかえって不自由、自からすそを踏みて倒るることあらん。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)