富士額ふじびたい)” の例文
顔は下膨しもぶくれ瓜実形うりざねがたで、豊かに落ちつきを見せているに引きえて、ひたい狭苦せまくるしくも、こせついて、いわゆる富士額ふじびたい俗臭ぞくしゅうを帯びている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春信はるのぶ春章しゅんしょう歌麿うたまろ国貞くにさだと、豊満な肉体、丸顔から、すらりとした姿、脚と腕の肉附きから腰の丸味——富士額ふじびたい——触覚からいえば柔らかい慈味じみのしたたる味から
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その肩の辺にもつれかかった崩れた髪の乱らがましさ、顔を隠した袖を抜けてクッキリと白い富士額ふじびたい、腰細くたけ高く、えんせいとを備えた風情ふぜいには、人を悩ますものがある。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
濃い頭髪、顔全体が長い割には、変に狭い富士額ふじびたい、短い眉、細い目、始終笑っている様な目尻のしわ、長い鼻、そして異様に大ぶりな口。三郎はこの口がどうにも気に入らないのでした。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
額はまるく、まゆも薄く眼も細く、横から見ると随分しゃくれた中低なかびくの顔であるが、富士額ふじびたい生際はえぎわかつらをつけたようにあざやかで、下唇の出た口元に言われぬ愛嬌あいきょうがあって、物言う時歯並の好い
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大抵の婦人は自惚鏡うぬぼれかがみに向って、私はこれで目丈けは千両だとか額丈けは富士額ふじびたいだとかと何か取柄とりえを見つけ出します。そうしてその一個所に重きを置いて、他のところは忘れてしまいます。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれどもその結果として自分は勢いうしろり返る気味で座を構えなければならなくなった。それですら自分は彼女の富士額ふじびたいをこれほど近くかつ長く見つめた事はなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狭い富士額ふじびたいが、一寸気にはなりましたけれど。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)