なよ)” の例文
楚々そそ——いとも楚々としてなよやかな佳嬪かひんが列をなしてきた。おのおの、酒瓶しゅへい肉盤をささげている。酒宴となった。哄笑、談笑、放笑、微笑。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして鼻のあなの正しい輪廓にも、高貴な生れを示すなよやかさと誇らしさとが見えてゐる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
前垂の膝を堅くして——かたわらに柔かな髪のふっさりした島田のびんを重そうに差俯向さしうつむく……襟足白く冷たそうに、水紅色ときいろ羽二重はぶたえの、無地の長襦袢ながじゅばんの肩がすべって、寒げに脊筋の抜けるまで、なよやかに
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なよやかなる七月のおとづれのごとく。四十三年七月
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なよびしなゆるあえかさや。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
日影たのしく身をなよ
に、ひきかえて、娘の花世は、女性的な上にも女性的な、なよやかな、可憐な、松の根に咲いた山桔梗やまききょうにもたとえたいほどに——きよく、ういういしい。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なよやかなる七月のおとづれのごとく。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
走り寄って、彼女のなよかな双肩もろかたを抱きしめつつ、その耳へ口を寄せて、いくたびとなくおなじことを言っていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なよやかなる風は蜜蜂の褐色かちいろ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二月きさらぎの日蔭のどこかにはまだ消え残っていそうな雪にふと出会った思いである。睫毛まつげが濃い。えりくびの細さや総じてのなよかな薄い体つきは、袂の忍びこうに交じって涙の香もするようだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不意に手を離されたのと、意外なおどろきにうたれたのとで、万吉はヨロリと後ろへ足を踏み乱しながら、窓の細目へ瞠目どうもくした。と、白い手がなよやかに動いて、雨戸の障子を二尺ばかり押しけた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、彼女のなよやかな腕では、将門の体を、どうしようもない。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)