天麩羅屋てんぷらや)” の例文
その天麩羅屋てんぷらやの、しかも蛤鍋はまなべ三錢さんせんふのをねらつて、小栗をぐり柳川やながは徳田とくだわたし……宙外君ちうぐわいくんくははつて、大擧たいきよして押上おしあがつた、春寒はるさむ午後ごごである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
町にはそっちこっちに、安普請の貸家が立ち並んで、俄仕立にわかじたての蕎麦屋そばや天麩羅屋てんぷらやなども出来ていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
以前ぶらぶらしていた時分行きれた八丁堀はっちょうぼり講釈場こうしゃくばの事を思付おもいついて、其処そこで時間をつぶしたのち地蔵橋じぞうばし天麩羅屋てんぷらやで一杯やり、新富町の裏河岸うらがしづたいに帰って来ると
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その隣りは天麩羅屋てんぷらやでした。廻りは皆普通の店ですのに、そこだけが一軒目立っていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
是公の連れて行ってやろうかは久しいもので、二十四五年ぜん、神田の小川亭おがわていの前にあった怪しげな天麩羅屋てんぷらやへ連れて行ってくれた以来時々連れてってやろうかを余に向って繰返す癖がある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東側の角には伊勢幸という洋服屋があり、婦人服を出していたのも珍しく、隣が福田屋という掛物の菓子屋で、よくそこで落がんなどを買ったのもなつかしい。一丁目では大新という天麩羅屋てんぷらやが古い。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
ヒマな、客の来ない、萎微をきわめた天麩羅屋てんぷらやだった。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
連れて来たその晩には、京橋で一緒に天麩羅屋てんぷらやへ入って、飯を食って、電車で帰った。表町の角まで来ると、自分は一町ほど先へ歩いて、明るい自分の店へ別々に入った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ときに、川鐵かはてつむかうあたりに、(水何みづなに)とかつた天麩羅屋てんぷらやがあつた。くどいやうだが、一人前いちにんまへ、なみで五錢ごせん。……横寺町よこでらまちで、おぢやうさんのはつのお節句せつくときわたしたちはこれ御馳走ごちそうつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小父は主婦とお庄とをつれて、晩方から寄席よせへ行って、帰りに近所の天麩羅屋てんぷらやで酒を飲んだ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同勢は近所の酒屋や、天麩羅屋てんぷらやなどをおどかした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)