ぱず)” の例文
その花柳病もよほど悪質だったとみえ、よく落語にあるような、鼻の障子がとッぱずれて、足腰も立てない重さであったらしい。
道化男は馬の腹の下や、前足や後足の間を飛鳥ひちょうのように潜り抜けて巧みに飛び付いて来る馬と犬を引っぱずした。見物の中に拍手の声が起った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一人でも多く番士をたおしたほうがいいから、源助町の剣をひっぱずして、長駆ちょうく、番士の群へ殺到すると、その気魄きはくの強さにおそれを抱いたものか
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あなた様の太刀先をひっぱずして、庄内川へ飛び込んだ男が、隠密の此奴こやつでございます。川がないから大丈夫で。今度こそお討ちとりなさりませ」
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
英和辞書を引っ張ると「中心ヲはずレタル」とか「偏心的ナル」だとかしち難しい訳が出ているが、平ったく言えばなあに「調子ぱずレ」ということだ。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
疾風のごとく斬込んで来るのを、引っぱずして右の手が高々と挙がりました。久し振りに平次得意の投げ銭です。
又九郎はおのれ斬りやアがったなと空鉄砲からでっぽうを持って永禪和尚に打って掛るをぱずして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いやそんなはずはございません。この上の高原でわなにかけ、罠を引っぱずして逃げるやつを、たしかに一本は狙いたがわず毒矢を射当てていたんですから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんの民弥が突かれるものか、右へ流すとひっぱずしどんと飛び込んで体あたり! 流されたのでヨロヨロと泳いで前へ飛び出して来た玄女の胴へ喰らわせた。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「唄い負かすか負かされるか、かなわぬまでも競って見よう。よし! そうだ!」と厩舎うまごやへ走り、グイとませぼうをひっぱずすと、飼い馬を元気よくひき出した。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「見事まず、こちらの弓弦ゆづるを引っぱずされたような心地」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ギョッとしてしりぞく敵に乗り、残心を勝つ心持ち、サッと右腕うわんへ太刀をつけた。敵もさる者スッと退く。足踏み違えた広太郎、息もつかせず左腕さわんを取る。が、こいつも引っぱずされた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)