)” の例文
旧字:
かたむいて矢のごとく下る船は、どどどときざみ足に、船底に据えた尻に響く。われるなと気がついた時は、もう走る瀬を抜けだしていた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてその通りの事がわたしの昔の空想だつた。昔からの大切な空想だつた。それが無残にはされたのだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
不幸にして七年前、遷居せんきょの際に、途中で一つの本箱をわし、その半数の書籍を紛失したが、ちょうどこのノオトも、その時に共に紛失してしまったのである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ハッと意識がついて見ると、自分は前と同じ場所に立ったままで、手もそのままではあったが、ガラス管は飛び散り、ガラスの覆面も滅茶滅茶にわれてしまっておった。
かも其悪魔が私の父です——今日こんにち会合あつまりは廿五年の祝典いはひでは御座いませぬ、光明ひかりを亡ぼす悪魔の祝典いはひです、——我父の打ちはす神殿の滅亡をひざまづいて見ねばならぬとは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
瀬戸物市場では小鉢を滅茶滅茶に打ちわし、花市場の花を蹴散らし、魚市場のうおを跳ね飛ばして散々に暴れ散らした揚句あげく、今度は南の国へ通う広い往来を駈け下りました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
細君は無論の事心配そうに「せっかく見事な帽子をもしわしでもしちゃあ大変ですから、もう好い加減になすったらうござんしょう」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし迷亭君見たように余計な茶々を入れてわすのは善くないと思う。仮令たとい勧めないまでも、こんな事は本人の随意にすべきはずのものだからね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さてこうなって見ると、もうおとなしくしていても仕方がない。どうせ主人の予定はわしたのだから、ついでに裏へ行って用をそうと思ってのそのそ這い出した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし流れて行く人の表情が、まるで平和ではほとんど神話か比喩ひゆになってしまう。痙攣的けいれんてき苦悶くもんはもとより、全幅の精神をうちわすが、全然色気いろけのない平気な顔では人情が写らない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余の空想の一半は倫敦塔を見たその日のうちにわされてしまった。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし人間を離れないで人間以上の永久と云う感じを出すのは容易な事ではない。第一顔に困る。あの顔を借りるにしても、あの表情では駄目だ。苦痛が勝ってはすべてをわしてしまう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕は登りたくなくって、仕方がないんだ」と碌さんがわした。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)