執拗しつえう)” の例文
(前略)不運は何故なぜかくまで執拗しつえうに余に附纏つきまとふことに候や。今春は複々また/\損失、××銀行破産の為め少しばかりの預金をおぢやんに致し候。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
土井は京都へついてからも、何か自分でおこつてゐるのぢやないかと反省はんせいしてみたくらゐ、執拗しつえうに京都行を主張したのであつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
又一疋の方はとり逃がした奴を直ぐあきらめるらしかつたけれども、他の一疋はなかなか執拗しつえうに稲田のなかまで足を泥にふみ込んで追ひ込む。
氷河の懸つた山の上には禿鷹はげたかの影さへ見えなかつた。が、背の低い露西亜ロシア人が一人、執拗しつえうに山道を登りつづけてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私はあとでそつと禿を捉へ、なだすかし、誰にも言はないから打明けろと迫つて見たが、禿は執拗しつえうにかぶりをつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
はばちたいといふためのその執拗しつえう努力どりよく勿論もちろんほかパイ使つかふことにでもなればなんやくたうはずもないのに、そんな骨折ほねをりをするといふ根氣こんきよさ、陰澁いんじふ
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
その眼は、私が顏からも凝視からも避けようとするのに執拗しつえうに私のを求めてゐるのだつた。彼は微笑ほゝゑんだ。
今度の事件——佐渡屋におほひ冠さるのろひの手は、あまりにも殘酷で、執拗しつえうで、加減も容赦もないのを見せつけられると、八五郎はもう姿を見せぬ曲者と四つに組んで
しんとした中に眼に見えぬ力が執拗しつえうに彼を圧して来る。彼は身を刺すやうな憎悪を感じた。ビ・リ・リ・リ・リと叫びながら遠野のくれたくちばしの紅い小鳥が籠の中で跳上る。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
更に或るときは君の行くてに待ちうけてゐる。また或るときはおくれせに後方から執拗しつえうに君を追ひかけても来る。だからそれらを常に予知することは運命を克服し打開し乗り越えることである。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
追はんとすれど執拗しつえう
宿酔 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
偏見はさうした心の中で、ちやうど石の間に生えた雜草のやうに執拗しつえうに生長して行くのである。
「若いんでせう、その人。」と彼女が執拗しつえうに訊ねた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)