四周まわり)” の例文
そして、本館は水松いちいの刈込垣でめぐらされ、壁廓の四周まわりには、様々の動物の形や頭文字を籬状まがきがたに刈り込んだ、樿つげや糸杉の象徴トピアリー樹が並んでいた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
秋もすでにおそく、国をめぐる四周まわりの山々は雪をかぶっています。風物と人の身の上を考えると兵馬にも多少の感慨があります。
あんじょう、テントのすそを、赤黒い火焔が、メラメラとめていた。火は已にテントの四周まわりを取りまいている様子だった。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四周まわりの一方は、他の三方よりもはるかに高くなって、上座という感じがした。そしてこの一列の建物は、ロンドンの讃嘆すべき出来事のために破られていた。
うなずきながら、私は見張台に立ち、四周まわりを見渡した。心の底まで明るくなるような、炎天の風景であった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかし、あれだけ調べておいたにもかかわらず、誰か覗いてはおらぬかと、私は板おおいをかけた窓、四周まわりの壁が気になるだけで、マフチャズの表情なぞは少しも眼に留まらなかった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
一家族の力などが、全社会に及ぼし得る力量をちゃんと知り、結局効果のない努力で一生を無にするよりは、学問なら学問の研究で、おのずから、四周まわりの改善の来る時を待とうと云う意識がある。
沈むにつれて四周まわりが次第に暗くなって、今まで泳いでいたうおは一匹も見えず、その代り今まで見た事もない、身体からだ中口ばかりのうおだの、眼玉に尻尾しっぽを生やしたようなうおだのが泳いでいます。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
今は路傍に美しい高山植物のたぐいこそ咲いてはいないが、山林、谿流けいりゅう、すべてが清麗で、顧みれば、四周まわりの深山の中には、焼岳の噴煙がおどろ髪のように立ちのぼる。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ウェンデルは元気づいてディスクのトービス機を引っぱり出して来た。そして振動板ダイヤフラムの音域を二千サイクルにまで引き延ばすべくせっせと鼻唄交じりで録音室の四周まわりにモンク皮を吊り下げている。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
低く高く遠近の山を見晴らし、すがすがしい松林を眺め、四周まわりは温和な海近い山あいの自然だから、その真中に暴力的に出現している高い新道は、いかにも一路がむしゃらというこころもちを与えた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
百里を流るる信濃川のかみ。歩み歩むといえども、歩み尽すということはありません。いわんや、立ち止まって月を見ると、四周まわりの山が月光に晴れて、墨の如く眼界に落ちきたる。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どこの村から、どう起ったかということは今わからないけれども、近江の四周まわりの山水が湖水へ向って集まるように、湖岸一帯の人民の不平が、ある地点へ向って流れ落ちてあふれて来る。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雪が今日はめざましいほど降り積って、四周まわりの山を覆うているのを見ました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)