呪縛じゅばく)” の例文
慈恩の笄でございます、母性愛の光でございます、子をうりょうる孫兵衛の母が、いまわのきわの意見を縫いつけた呪縛じゅばくの針でございます。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出し抜けにぎゅッと五体を呪縛じゅばくした感じ、………でなかったら、巨大な熊の如き獣の胸に抱きすくめられたような工合だった。
内実ではより多くの例の「健全なる」道徳に呪縛じゅばくせられて、自我の本性をポーズの奥に突きとめようとする欲求の片鱗へんりんすらも感じてはいない。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
座敷はしんとしずまりかえった、空谷くうこくのようになんの物音もしない。人々は身動きもせず、呪縛じゅばくされたように眼をみはり息をひそめて坐っている。
天翔あまかけることも地を潜ることも、魑魅魍魎ちみもうりょうを使うことも、呪縛じゅばくでお前さんを縛ることも、どんな事だって出来るのだよ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妙な形のガラス壜のことが心にかんだとき、宿命的な魔法の呪縛じゅばくにかかっている美しい一人の女の姿が、生けるがごとくにわたしの幻影となって現われてきた。
我々の行為は絶えずその呪縛じゅばくのもとにある。道徳の拘束力もそこに基礎をもっている。他人の期待に反して行為するということは考えられるよりもはるかに困難である。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
しかし、現在の日本のジャーナリズムがその魔術の呪縛じゅばく破綻はたんを示してときどき醜いしっぽを露出するのはいわゆる科学記事の方面において往々に見受けられるのは注意すべき現象である。
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
巨大な財産をのむ名壺めいこ魅縛みばく……これをこそ、呪縛じゅばくというのでしょうか。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
途端に呪縛じゅばくが解けたのである。
……いえ、いえ。いくら李逵が嫌のなんのといったって、師の呪縛じゅばくにかかっては、ネを抜かれた禿鷹はげたかも同様で飛び立つことはできません。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四涜しとくの塔と呼ばれていた。そこには四人の悪神の像が、呪縛じゅばくされて置かれてあった。それを通ると鐘楼であった。梵鐘ぼんしょうは青く緑青ろくしょうを吹き、高く空に懸かっていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中から用意の心張棒しんばりぼうが掛っているということは知らないので、今は、お蝶と龍平、あたかも錠前の呪縛じゅばくにかかったように、かねば開かぬほど意地になって
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待ちな、おばばおいらも行く。……あの走りざま、色気がないなあ……えんの行者に呪縛じゅばくされたという、鬼子母神きしもじん様にそっくりじゃ。飛天夜叉殿、ではご免。……未練のこして行くとしようぞ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いまわしい運命の呪縛じゅばくからのがれたい一心に、さまざまと手をくだいた甲斐があって、川長かわちょうのお米は、やっと、なつかしい大阪の町を、再び目の前に見ることができた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呪縛じゅばくでござる。さよう島原城之介のな。さがして城之介にお逢いなされ。呪縛を解くようおたのみなされ。お京様の狂乱はなおりましょう。その節巻軸を奪い取り、当屋敷へご持参なさい。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その水気が乾くに従い、つるは針金より固くなって、一一分肉へ食いこんでいく一種の呪縛じゅばくだ。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで彼奴らは法術で——いわば一種の呪縛じゅばくだね。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「……はてな?」智深は少し汗を吹きはじめた。「腹のへッているせいか?」いや、そうでもなかった。剣気というのか、一種の精気が呪縛じゅばくをかけてくるのだった。智深はやっと自重しだした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呪縛じゅばくされているのだ、貴様のために!」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呪縛じゅばくでござるよ、城之介のな!」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)