名取なとり)” の例文
惚太郎君は(朝野はいろいろと言い方を変えた。)大体は清元きよもとの人で、——お母さんは延寿さんのところの名取なとりだったそうですがね。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
椎野しひの海軍中将、黒部くろべ陸軍少将、元群馬県知事名取なとりしゆん六氏、さかき予備主計監、総領事釜屋望かまやのぞむ氏、最後に浦川子爵と来賓一同が席に就く。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それはお雪ちゃんが、名取なとりに近いところまでやったという長唄ながうたでもない。好きで覚えた新内しんないの一節でもない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
猿之助の父は段四郎で踊りで名の知れた人、母のことじょ花柳はなやぎ初代の名取なとりで、厳しくしこまれた踊りの上手じょうず。この二人が息子のために舞台前に頑張がんばっている。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ここに老人がつぶやいた、大沼勘六、その名を聞け、彼は名取なとりの狂言師、鷺流さぎりゅう当代の家元である。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八重唯舞ふ事をくするのみにあらず哥沢節うたざわぶしは既に名取なとりなり近頃また河東かとうを修むと聞く。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
春は名取なとりの若草や
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
力寿は京都にある時、四歳にして家元篠塚文寿の門に入り、十三歳にして名取なとりとなる。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こひか、三十日みそかかにせたのは、また白銅はくどうあはせて、銀貨入ぎんくわいれ八十五錢はちじふごせんふのもある……うれしい。ほんこゝろざしと、藤間ふぢま名取なとりで、嬌態しなをして、水上みなかみさんのたもとれるのがある。……うまい。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)