古郷ふるさと)” の例文
六九古郷ふるさとに捨てし人の消息せうそこをだにしらで、七〇萱草わすれぐさおひぬる野方のべに長々しき年月を過しけるは、七一まことなきおのが心なりける物を。
さてはそらごとにあらじ、古郷ふるさとを出て三百里に及べば、かかる奇異のことにも逢ふ事ぞ、さらば宿り求めんとて、あなたこなた宿を
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古郷ふるさと涅槃会ねはんえには、はだに抱き、たもとに捧げて、町方の娘たち、一人が三ツ二ツ手毬を携え、同じように着飾って、山寺へ来て突競つきくらを戯れる習慣ならいがある。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたしの古郷ふるさとのおとめといえば、江戸の面影と、を、いくらか残した時代の、どこか歯ぎれのよさをとどめた、雨上りの、杜若かきつばたのような下町少女おとめで、初夏になると、なんとなく思出がなつかしい。
いづこにも心とまらばみかへよ ながらへばまた本の古郷ふるさと
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なほ御四五跡をしたうて責討せめうてば、古郷ふるさとほとりは四六干戈かんくわみちみちて、四七涿鹿たくろくちまたとなりしよしを四八いひはやす。
不思議や、蒔絵まきえの車、雛たちも、それこそ寸分すんぶんたがわない古郷ふるさとのそれに似た、と思わず伸上のびあがりながら、ふと心づくと、前の雛壇におわするのが、いずれも尋常ただの形でない。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるじの女、屏風すこし引きあけて、めづらしくもあひ見奉るものかな。一三九つらきむくいの程しらせまゐらせんといふに、驚きて見れば、古郷ふるさとに残せし磯良いそらなり。