古蓑ふるみの)” の例文
横手の衝立ついたて稲塚いなづかで、火鉢の茶釜ちゃがまは竹の子笠、と見ると暖麺ぬくめん蚯蚓みみずのごとし。おもんみればくちばしとがった白面のコンコンが、古蓑ふるみの裲襠うちかけで、尻尾のつまを取ってあらわれそう。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左の方の柱には古笠と古蓑ふるみのとが掛けてあつて、右の方の暖炉だんろの上には写真板の手紙の額が黒くなつて居る。北側の間半けんはんの壁には坊さんの書いた寒山かんざんの詩の小幅が掛つて居るが極めて渋い字である。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
たとひ今は世に亡き人にもせよ、正に自分の恋人であればだけれども、可怪おかし枯野かれのの妖魔が振舞ふるまい、我とともに死なんといふもの、恐らく案山子かかしいだ古蓑ふるみの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
古蓑ふるみの案山子かかしになれば、茶店の骸骨も花守をしていよう。煙は立たぬが、根太を埋めた夏草の露は乾かぬ。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古びた雨漏あまもりだらけの壁に向つて、と立つた、見れば一領いちりょう古蓑ふるみのが描ける墨絵すみえの滝の如く、うつばりかかつて居たが、見てはじめ、人の身体からだに着るのではなく、雨露あめつゆしのぐため
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)