口嘴くちばし)” の例文
広い葉の上に止って前脚で小さな毛虫らしいものをしっかりつかまえて、それをあの鋭い鋏のような口嘴くちばしでしきりに噛みこなしていた。
蜂が団子をこしらえる話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
井戸端に遊んでいたあひるが四羽ばかり口嘴くちばしそろえて、私の方へ「ぐわアぐわア」と鳴いて来ました。忌々しいものです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うす暗いなかに浮き出しているふくろうのような大きい眼、とんび口嘴くちばしのような尖った鼻、骸骨のように白く黄いろい歯、それを別々に記憶しているばかりで
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
面倒だから、いっそさよう仕ろうか、敵は大勢の事ではあるし、ことにはあまりこの辺には見馴れぬ人体にんていである。口嘴くちばしおつとんがって何だか天狗てんぐもうのようだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
氷峰も、會計も、表面は打ち解けた樣になつて、二人の打ち方を見ながら、いろんな口嘴くちばしを入れる。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
ブリキ細工の雀が時計の振子のように左右に動いているのを、小さいなまりの弾で撃つのだ。尻尾しっぽに当っても、胴に当っても落ちない。頭の口嘴くちばしに近いところを撃たなければ絶対に落ちない。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
淡緑色の大きな眼球に蚊のはし程のほそく鋭い而してじいと人を見詰むるひとみを点じたすごい眼、黒く鋭い口嘴くちばし、Vice の様な其両手、いて見れば黒い虫の様にうごめく腸を満たしたふくれ腹
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして喜ばしそうに羽ばたきして、そこいらにこぼれたものを拾っては、首を縮めたり、黄色い口嘴くちばしを振ったり、ひょろひょろと歩き廻ったりした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
紅い鳥が、青い樹間このまから不意に飛び出した。形は山鳩に似て、つばさ口嘴くちばしもみな深紅しんくである。案内者に問えば、それは俗に唐辛とうがらしといい、鳴けば必ず雨がふるという。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この二つの蛇の決闘は指相撲ゆびずもうを思い出させる。王蛇のほうの神経の働く速度がガラガラ蛇のそれよりもほんの若干だけ早いために、前者の口嘴くちばしが後者のそれを確実に押えつけるものと見える。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女はあっと驚いて立ちあがると、鶏は口嘴くちばしを働かせ、蹴爪けづめを働かせて、突くやら蹴るやら散々にさいなんだ。女は悲鳴をあげて逃げまわるのを、かれは執念ぶかく追いまわした。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黄なる口嘴くちばし脚蹴爪あしけづめ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)