おさま)” の例文
旧字:
ふみ お見合のおさまりなんてものはどうつけるものかしら。こうなると私もお兄さんもお見合いなんてものしなかっただけに不便ね。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
幹事は矢島、津田の二名ということになって、四方八方まるくおさまった様子で、津田氏は私の背中を、軍師、軍師、と言ってたたいた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ごらんの通り、この無頼者ならずものめが、先刻より私にさまざまな難癖をつけ、なんとなだめてもおさまりがつきません。その上にも、生きた人間を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉岡司法主任は、一つの不安が去った代りに、もう一つの別の恐怖に冷汗をかきながら、本部におさまると、やっきになって捜査の采配を振りつづけた。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
若い者たちは、なにか、思いきったことをやらなければおさまらない気もちになっている。勝敗は問題じゃないのだ。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
博士は、猫が魚のあらと取組んでいるようにただうなるばかりである。カンガルーの燻製が、ことごとく博士の胃袋におさまるまでは、まず何にも言わないつもりらしい。
この間中あいだじゅうは見るからに、万紅ばんこうを大地に吹いて、吹かれたるものの地に届かざるうちに、こずえから後を追うて落ちて来た。忙がしい吹雪ふぶきはいつか尽きて、今は残る樹頭に嵐もようやくおさまった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、そんな簡単なことで、おさまりのつくことではないでしょう」
その振りがようやくおさまったと思う頃、さっと音がして、病葉わくらばはぽたりと落ちた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眼に写っただけの寸法ではとうていおさまりがつかない。一層いっその事、実物をやめて影だけ描くのも一興だろう。水をかいて、水の中の影をかいて、そうして、これが画だと人に見せたら驚ろくだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)