午餐ひるめし)” の例文
今日はちっとも風のない温かい日であった。午餐ひるめしの済んだ後、市郎は縁側に立って、庭の南天の紅い実を眺めていると、父の安行が又入って来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
リユウ・デ・ゼコルの通りへ出て大学前の伊太利亜イタリア料理で午餐ひるめしを済ませたのち、地下電車に乗つてユウゴオの旧宅をプラス・デ・ヷスチル街にうた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
甚七は午餐ひるめしを食べに茶店へ立寄った。馬上の主人は甚七が、徒歩でこの辺へまで来た頃と計っていたから、立場たてばの前で馬を並足に一軒々々覗いてきた。
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
丁度発行所の吉岡書店から原稿料を請取うけとって来た処だというので、紅葉はソンナラ午餐ひるめしおごれといい、自分は初対面であったが、三人して上野の精養軒へ行った。
彼は凍火酒ウィモロズキを嗜まず、ただ午餐ひるめし晩餐ばんめしの前に火酒ウォツカを一杯やるだけで、マヅルカも踊らなければ、⦅銀行バンク⦆もやらなかつたので、自然、いつも独りぼつちでゐる他はなかつた。
こんな生活をしている健三が、この同宿の男の眼にはさも気の毒に映ったと見えて、彼はく健三を午餐ひるめしに誘い出した。銭湯へも案内した。茶の時刻には向うから呼びに来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗左は相手が不昧公だといふので、色々趣巧を凝らした午餐ひるめしの用意などしておいた。
「諸君、敵を前に控えて悠々ゆうゆう午餐ひるめしをくう諸君の勇気は——立花宗茂たちばなむねしげに劣らずというべしだ。お互いにみんなそろって今日きょうの夕飯を食うや否やは疑問だ。諸君、別れに握手でもしようじゃないか」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そしてひるごろ、南山の水寨すいさいから、その日再び、午餐ひるめしの招待があった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
午餐ひるめしが済んで、二人がまだお吉と共に勝手にゐたうちに、二人の奉公口を世話してくれたといふ、源助と職業しごと仲間の男が来て、先様では一日も早くといふから、今日中に遣る事にしたらどうだと言つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
駄菓子などで午餐ひるめしをすましておくことなどもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「もうこんなに日が高いのに、お前の家では午餐ひるめしの支度も出来てをらんぢやないか。」
海岸には人家がつらなってしまったので、眺望ながめが自由でない。かつは風が甚だしく寒いので、更に品川の町にり、海寄りの小料理屋へあがって、午餐ひるめしいながら硝子戸がらすど越しに海を見た。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
博物館前の料理屋レスタウランでゆつくり午餐ひるめしを済ませた上疲労して居る晶子を馬車に載せて市の中央にある公園の池のほとりを一周し、旅館ホテルへ一旦引返して晶子を休養させ、更に僕一人で午後の見物に出掛けた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
事務所へ帰って午餐ひるめし御馳走ごちそうになったとき英国人ははしも持てず米も喰えず気の毒なものであった。この領事は支那に十八年とかいたと云うのに、二本の箸を如何いかんともする事のできないのは案外である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)