創痍そうい)” の例文
ことに露西亜ロシアは日露戦争に於て受けたる創痍そういのために、墺地利オーストリアがボスニャ・ヘルチェゴビナを併合せるとき、独逸ドイツに威嚇せられて
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と、城壁の上に立って、りゅうりゅうと槍をふるい、当るをたおし、自身も満身に創痍そういをあび、のちの記憶にとどまるような死に方をした。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして見れば飾磨屋は、どうかした場合に、どうかした無形の創痍そういを受けてそれがえずにいる為めに、傍観者になったのではあるまいか。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
氏の敏感はすぐその私に気がついたらしく流石さすがに黙って立ち上った氏の顔を私がたとき私はたしかに氏の顔に「自己満足の創痍そうい。」を見た。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
プロレタリヤ文学——そういった新らしい芸術運動の二つのちがった潮流が、澎湃ほうはいとして文壇にみなぎって来たなかに、庸三は満身に創痍そういを受けながら
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いずくんぞ知らん、顔の創痍そういは他人の女に手を出して失敗しくじった記念で、勁抜けいばつの一文はソールズベリー卿の論文をそッくりそのまま借用したものに過ぎぬ。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
母の死が私に与えた創痍そういも殆んどもういやされたように思い慣れていたこんな時分になって、突然、そんな工合にひょっくり私のうちによみがえったその苦痛が
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
衣服の方の満身の創痍そういは、もう誰かの心づくしで、すっかり癒されている。そこで道庵先生がいい気持で、胆吹のハイキングコースにとりかかったことは珍しいことです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
妙子はつい二三日前に、三七日みなのかのおまいりに岡山在まで行って来たところなのではあるが、もうあの不幸な出来事が格別の創痍そういを心に留めていないらしく、元気になっていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
勿論もちろん游泳を学ばないものは満足に泳げる理窟はない。同様にランニングを学ばないものは大抵人後に落ちそうである。すると我我も創痍そういを負わずに人生の競技場を出られるはずはない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みんなよろいもずたずたになり、どれもこれも満身創痍そういの姿だった、横顔を草に埋めている者もあり、仰に斃れて眼をみひらいたまま死んでいる者もあった、片腕のない死躰、足を喪ったもの
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし魏延の軍も大損害をうけたし、王平軍もまた創痍そうい満身の敗れ方だった。四日目の朝、やっと敗残の兵をまとめて
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この間のことが矢張多少は精神的に創痍そういをとどめてはいないかと考え、そう矢継早やにあとの話を持ち出すことは控えた方がよいと思っていた訳であるが、何処からか写真を送って来ているのに
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
尊氏が創痍そういの舟軍をひきつれて、ひとまずここへ寄港したのも一に円心のすすめであった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その創痍そういえきれないであるのだ——とは強いて歪曲わいきょくしていわないのであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊勢の長嶋門派の殄滅てんめつをうけたことなど——満身創痍そうい傷手いたでだったといっていい。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首を獲ること四百三十七級——その日もはや暮れなんとして——ようやく味方の人数にもめっきりりが目立ち、残る人々もすべて満身創痍そういを負って、つつがなく歩いている人影はほとんどなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)