あま)” の例文
新字:
口に聖母の御名みなを唱へつゝ、走りて火に赴きて死せんとす。爾時そのとき僅に數尺をあましたる烈火の壁面と女房との間に、馬を躍らしてり入りたる一士官あり。
此日には刀自の父榛軒が壽阿彌に讀經どきやうを請ひ、それがをはつてから饗應してかへす例になつてゐた。饗饌きやうぜんには必ず蕃椒たうがらしさらに一ぱい盛つて附けた。壽阿彌はそれをあまさずに食べた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
またるよ、とふられさうなさき見越みこして、勘定かんぢやうをすまして、いさぎよ退しりぞいた。が、旅宿りよしゆくかへつて、雙方さうはうかほ見合みあはせて、ためいきをホツといた。——今夜こんや一夜いちや籠城ろうじやうにも、あますところの兵糧ひやうらうでは覺束おぼつかない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
下は大床より上は天井に至るまで、立錐りつすゐの地をあまさゞるこの大密畫は、即ち是れ一くわの寶玉にして、堂内の諸畫は悉くこれをうづめんがために設けし文飾あるわくたるに過ぎず。
全篇支離にして、絶て格調の見るべきなし。看てへいとなせば、これ瓶。さんとなせば、是れ盞。劍となせば、これ劍。その定まりたる形なきこと、これより甚しきはあらず。字をあますこと凡そ三たび。