切通きりどお)” の例文
駒込の安泊やすどまりに居るってえんで、何だか目が潰れてしまって、本郷の切通きりどおしを下りるにも三とか四たびとか転んだが、下へ転がり切らなけりゃア
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほろの間から見ると車の前にある山が青くれ切っている。その青いなかの切通きりどおしへ三人の車が静かにかかって行く。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、幕府は戦時令にひとしい厳しさを以て、流言の徒や、怪しい入府者を取締り、七切通きりどおしを、兵でふさいだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし芝の鐘は切通きりどおしにあったそうであるが、今はそのところには見えない。今の鐘は増上寺ぞうじょうじの境内の、どの辺から撞き出されるのか。わたくしはこれを知らない。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから二人は本式に息杖を振って、かどごとに肩をかえながら、下谷の屋敷町を真直に小普請手代を通り過ぎて、日光御門跡から湯島の切通きりどおしを今は春木町の方へ急いでいるのだった。
帰る時には玄関まで送ってきて、「今日は二百二十日だそうで……」と云われた。三人はその二百二十日の雨の中を、また切通きりどおごえに町の方へくだった。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
駒込片町こまごめかたまち安泊やすどまりに居りまして、切通きりどおしの坂を下りてよう/\此処まで来るうちに二度転んだと云う俄盲にわかめくらでございます。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
高い悲鳴をあげる代りに、疳走かんばしッた声でこうののしッたのは、かなり気の勝った娘らしい。つかまれた手に爪を立てながら、切通きりどおしの広い前後をふりかえって、早く誰か来る人影はないかと必死に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度其の頃湯島ゆしま切通きりどおしに鋏鍛冶はさみかじ金重かねしげと云う名人がございました。只今は刈込かりこみになりましたが、まだまげの有る時分には髪結床かみゆいどこで使う大きな鋏でございます。
この亭主はひたいが長くって、はすに頭の天辺てっぺんまで引込ひっこんでるから、横から見ると切通きりどおしの坂くらいな勾配こうばいがある。そうして上になればなるほど毛がえている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或日私は切通きりどおしの方へ散歩した帰りに、本郷四丁目の角へ出る代りに、もう一つ手前の細い通りを北へ曲った。その曲り角にはその頃あった牛屋ぎゅうやそばに、寄席よせの看板がいつでもかかっていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或日彼はその青年の一人に誘われて、いけはたを散歩した帰りに、広小路ひろこうじから切通きりどおしへ抜ける道を曲った。彼らが新らしく建てられた見番けんばんの前へ来た時、健三はふと思い出したように青年の顔を見た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)