円山まるやま)” の例文
旧字:圓山
山科やましな円山まるやまの謀議の昔を思い返せば、当時の苦衷が再び心の中によみ返って来る。——しかし、もうすべては行く処へ行きついた。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で礼助は円山まるやま公園を一廻りして今度は四条通りを逆にぶらりぶらりと新京極の方へ来た。新京極で或るカフエに疲れた腰を下した。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
漱石が教師をやめて、寒い京都へ遊びに来たと聞いたら、円山まるやまへ登った時を思い出しはせぬかと云うだろう。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「左様、南北流を少々修行つかまつり、狩野、土佐、雲谷うんこく円山まるやま、四条の諸派へも多少とも出入り致しました」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは全く格別の趣きである。これは即ち南宗なんしゅう北宗ほくしゅうより土佐とさ住吉すみよし四条しじょう円山まるやまの諸派にも顧みられずわずかに下品極まる町絵師が版下絵はんしたえの材料にしかなり得なかった特種とくしゅの景色である。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
植物園や円山まるやま公園や大学構内は美しい。エルムやいろいろのかしわやいたやなどの大木は内地で見たことのないものである。芝生の緑が柔らかで鮮やかでめば汁の実になりそうである。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
円山まるやま公園へ出て名高い糸桜の咲きかけを見物し、又ほん少時しばらく自動車のお世話になってから僕達は清水のダラ/\坂を登り始めた。京都の名所は初対面でも皆古馴染のような気がする。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
篠田の双眸さうばう不図ふと円山まるやまの高塔に注がれて離れざるなり、静穏なるかな、芝のもりよ、幽雅なるかな、円山の塔よ、去れど其の直下、得も寝で悲み、夜を徹して祈れるもの一人あり、美しき雪よ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いつぞやの円山まるやま会議に顔を見せない欠席者のうちで、内蔵助の眼で、これはと思う人々へは、こちらから血判を持って行って返して歩くように——と、これは勿論、内蔵助の深謀で、大高
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塀の外はすぐ円山まるやま公園につづく祇園社ぎおんしゃの入口に接近しているので、暖かい、ゆく春の宵を惜しんで、そぞろ歩きするらしい男女の高い笑い声が、さながら歓楽にあふれたように聞えてくるのである。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
円山まるやまの南の裾の竹原にうぐひす住めり御寺みてらに聞けば
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
梅が枝は円山まるやま温泉の宿だった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
試みに今土佐とさ狩野円山まるやま等各派の制作と浮世絵とを比較するに、浮世絵肉筆画は東洋固有の審美的趣味よりしてその筆力及び墨色ぼくしょくの気品に関しては決して最高の地位を占むるものにはあらざるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)