仮色こわいろ)” の例文
旧字:假色
仮色こわいろを船で流して来た。榊は正太の膝を枕にして、互に手をりながら、訴えるような男や女の作り声を聞いた。三吉も横に成った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんなにものを云つてる人間が自分の外にあつて、自分はただその仮色こわいろをつかつてるにすぎないのではあるまいかとさへ思はれた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
わたくしが船頭の仮色こわいろを使って、ようやく調子づいてこれなら大丈夫と思って得意にやっていると、……つまり身振りがあまり過ぎたのでしょう
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
福澤が蝙蝠かわほり傘一本で如何いかに士族の仮色こわいろを使うても、之に恐るゝ者は全国一人もあるまい。れぞ文明開化のたまものでしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
斯うやって草鞋穿わらじばきになり田舎者の仮色こわいろつかい、大勢を騒がし、首尾よく往った所がたった八十両、成程是れはちいせえ、それに引換え旦那などは座蒲団の上で、くわえ煙管をしながら
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
菊枝が毎度出ましてお邪魔様でございます、難有ありがとう存じます。それから菊枝に、病気揚句だ、夜更よふかしをしてはくないからお帰りと、こう言うのだ。てめえまたかりん糖の仮色こわいろを使って口上を
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、肚の中で、仮色こわいろの真似をしてみた。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しかし宅のものは別段それに頓着とんじゃくする様子も見えなかった。私は無論平気であった。仮色こわいろと同時に藤八拳とうはちけんも始まった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又「どうだい、番頭の仮色こわいろつかって金を預けさせるようにした手際てぎわは」
不可いけねえぜ。」と仮色こわいろのように云った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その人物が出て来るように仮色こわいろを使うと云った癖に遣手や仲居の性格をよく解しておらんらしい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから当分の間は、御免下さいましだの、どちらからいらっしゃいましたのとさかん挨拶あいさつの言葉が交換されていた。その間にはちりんちりんと云う電話の仮色こわいろも交った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時々は紫色むらさきいろ亀甲型きっこうがたを一面にった亀清かめせい団扇うちわなどが茶の間にほうされるようになった。それだけならまだ好いが、彼は長火鉢ながひばちの前へすわったまま、しきりに仮色こわいろつかい出した。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし自分の兄共はそろいも揃って芝居好で、家にいると不断仮色こわいろなどを使っているから、自分はこの仮色を通して役者を知っていた。それから今日までに団十郎をたった一遍見た事があるばかりである。