介添かいぞ)” の例文
お糸さんが家にきた翌朝、私は起きるとすぐお糸さんを探したが、お糸さんは縁側で顔を洗っている父の介添かいぞえをしていた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
裏の雑木林から寺の方へ、権平の走ってゆく跫音あしおとが遠ざかってゆく。そのまに秀吉は小姓たちに介添かいぞえされながら、手早く鎧具足よろいぐそくを着けていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
介添かいぞえ役とはほんの名ばかり。足手纏いかも知れませぬが、行ける所まで行くとしよう。世の中は広い。天は高い。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伯父は捜索につかれ切って半病人になってしまった。そこへ警視庁からかさねての呼び出しが来たので今朝、めいのダリアを介添かいぞえに桜田門さくらだもんへ行ったというのだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それじゃ内藤の介添かいぞえになれ。二人ふたりで出てこい。しかし手出しをすると承知しないぞ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこで同志の心を安んずるために、まずせがれ主税ちからに老巧間瀬久太夫を介添かいぞえとして、大石瀬左衛門、茅野かやの和助、小野寺幸右衛門なぞとともに、自分に先立って下向させることにした。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ぐいとその手をねじむけて、介添かいぞえながら十郎次に書判させると、折から晴れ晴れとした顔で再び姿を見せた老神主に、大目付上申のその奉書をさしながら、莞爾かんじとして言った事でした。
大勢の近侍が、忠利を取り巻いて、矢を抜きに駈けたり介添かいぞえしたり、また、固唾かたずをのんで、弓鳴りを見まもっていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
介添かいぞえいたす必要もあり、ねたば三十郎と申す男を、附け添わせましてござります
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「僕は介添かいぞえだよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
五左衛門に介添かいぞえされて、義貞の前に、ちょこんと坐った。そしてお辞儀をした。義貞もていねいに礼儀を返した。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いずれは申さねばならぬ事じゃに、只今お話し致しましょうぞ。殿の姫君芳江どのと、神保帯刀殿ご子息の市之丞殿とはここ久しく、ご相愛の仲でござりますぞ。してその介添かいぞえはこの老人、オースチン儀にござります!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大手の松原前にかかると手綱たづなをとめ、介添かいぞえして鞍わきへ立つ。そして光秀が降りると、馬を部下にあずけ、自分は主人に添って、濠橋ほりばしへ歩いてゆく。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
輿が聟館むこやかたに入れば、嫁方には実家女臈さとじょろう、聟方には待ち上臈、それぞれの介添かいぞえがついて、式の座につく。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なおまだ落ちずにいた女院や女房たちもオロオロ見え、それの介添かいぞえして行く老いたる尼のろうたけた気なげさには、死も一つに、としている容子ようすがたれの姿よりは濃くみえた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先帝ご不自由のため、獄中へお介添かいぞえの女房を移し参らす儀はかまいない。しかし三位ノ局ひとりではならぬ。ほかに権大納言ノ局と小宰相こさいしょうのふたりをも合せてお側におき申せ。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
院の御使みつかいの船は、まもなく、尊氏の乗船の横へ着いた。すぐ右馬介の介添かいぞえで、自船から大船の上へと移った日野賢俊けんしゅんと薬師丸の影は、一とき湾内の者の視線をしゅくとあつめていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「近江ノ入道(道誉)が、身の護送役とは、よいお介添かいぞえ。よろしく、たのむ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)