人混ひとご)” の例文
なかでも、波止場はとば人混ひとごみのなかで、押しつぶされそうになりながら、手巾ハンカチをふっている老母の姿をみたときは目頭めがしらが熱くなりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
なにかひどくに落ちかねたような顔つきで、鼻をヒクヒクさせながら、人混ひとごみをかきわけるようにして、出口のほうへ歩いて行った。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
お松は、座敷の人混ひとごみに上気して、ひとり誰もいない室へ来て、ホッと息をついて、ほてる頬を押えています。と、次の間で人のささやく声
それから、三々伍々、茶屋の者も交じって、繰り出したので、神明の生姜祭しょうがまつり人混ひとごみへ交じったのは、もう夕方になっていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ジャネットは此の人混ひとごみにあおられるとすっかり田舎女の野性をむき出しにしてロアール地方のなまりで臆面もなく、すれ違う男達の冗談に酬いた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は、食事を済ますと、すぐさま圧搾空気軌道あっさくくうききどうくだの中に入り、三分四十五秒ののちには、記念祝賀会場たるネオ極楽広場の人混ひとごみの中に立っていた。
どろだらけの通路、押し合ってる人混ひとごみ、入り乱れてる車——あらゆる形の乗り物があって、古い乗合馬車、蒸汽車、電車、その他各種の機関の車——歩道の上の露店
もし尼の顔に覆面が掛っていたら阿Qは魅せられずに済んだろう——彼は五六年ぜん、舞台の下の人混ひとごみの中で一度ある女の股倉またくらに足を挟まれたが、幸いズボンを隔てていたので
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あの神保町じんぼうちょう人混ひとごみの中で見たジーナの姿だったのです……それから一週間ばかりたって、門前にたたずんでいた、あの恨めしそうなスパセニアの顔だったのです……そうだ、もうあの時は
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
おお人混ひとごみのなかかけるようになりました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人混ひとごみにときめかぬ處女の胸
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
しばらく唖然あぜんと突っ立っていたぼくは、折から身体をして行く銀座の人混ひとごみにもまれ、段々、酔いが覚めて白々しい気持になるのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その姿が、人混ひとごみにまぎれ消えたかと思うと、やがて、急いでゆく町駕のれから、お米のすそがはみだして見える。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新吉と二人の女とはモンマルトルの盛り場の人混ひとごみへ互に肩を打当てゝ笑いさゞめきながら、なだれ込んだ。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自身番に詰めていたもの、今の火事騒ぎで通りかかったもの、こちらへ飛んで来るから七兵衛は、紙屑買いを突き放して人混ひとごみの中へ姿を隠してしまいます。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さびしい顔立が、人混ひとごみにまれ、船がはなれて行けば、いっそうたよりなげに見える、そのぼんやりした瞳に、ぼくが、テエプを抛ろうとすると、その瞳は、急にれてみえるほど
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
こうして二人は両国の人混ひとごみへ入り込んで行きました。