交野かたの)” の例文
自重してまじめなふうの源氏は恋愛風流などには遠かった。好色小説の中の交野かたのの少将などには笑われていたであろうと思われる。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
質問してしまえばもはや用の無いはずだが、何かモジモジして交野かたのうずらを極めている。やがて差俯向いたままで鉛筆を玩弄おもちゃにしながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さるはいといたく世をはばかり、まめだち給ひけるほどに、なよひかにをかしき事はなくて、交野かたのの少将には笑はれ給ひけむかし。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
交野かたの平六へいろくが、おのをたたいて、こうののしると、「おう」という答えがあって、たちまち盗人の中からも、また矢叫やたけびの声が上がり始める。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
去年は、思はざる雨つゞきで、嵯峨も交野かたのの櫻も見ずに過したが、今年は屹度折を見て、そなたを伴うて得させよう。
袈裟の良人 (旧字旧仮名) / 菊池寛(著)
彼は天満橋から京阪電車に乗って、枚方まで行き、枚方から東の岡を登って、彼の好きな北河内交野かたのの原に出た。彼はひとりぼっちで野良を彷徨した。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
交野かたの嵐山あらしやまの春を思えばたまらない。さくらの花のなかに車をきしらせた春を思えば。つんだ花を一ぱい車の中にまいて、歌合わせをして遊んだ昔の女たちを思えば。わしはむしろ死を願う。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
交野かたのつじという野原があります。そこへさしかかると、鳴いて飛びたった一羽の雉子きじが、あわれにもかりうどの矢に射おとされるのを見て、娘は父の悲しい思い出を連想し、駕籠かごの中から
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「即答、または評議中、御返事まちまちではありますが、今日まで内諾ないだくあった諸国諸侯の御連名……」と年長の交野かたの左京太夫、ふところを探って細長い包みを解き、帛紗ふくさを敷いてその上へ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるとき河内国かわちのくに交野かたのというところに、備中守実高びっちゅうのかみさねたかというおさむらいがありました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
故にその身分だけの小屋を貰っていたが、或る時、私の母の弟で、交野かたの金兵衛といって、同じく常府で居たものが、私を連れて外出しようとした。家の門の前にどぶがあって、石橋がかかっていた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
声に応じて、交野かたのの平六が、太刀たちさやを、柱にぶっつけながら、立ち上がった。楼上に通う梯子はしごは、二十いくつの段をきざんで、その柱の向こうにかかっている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
交野かたのの少将は紙の色と同じ色の花を使ったそうでございますよ」
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
交野かたのちかくにおりましたいやしいものの子でございます。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「筆頭!」交野かたの卿、扇子のかなめを文字について
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、沙金が顔を上げて、赤子を抱いたまま、立っている交野かたのの平六の顔を見て、うなずいた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)