二十日鼠はつかねずみ)” の例文
部落の子供たちが、おどろいて、二十日鼠はつかねずみのように、ちょろちょろと、駈けて来て、見送っているのが、手にとるように見える。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その怖い怖い祖父が、翁の前に出ると、さながら二十日鼠はつかねずみのようにと縮みになるのを見て筆者も文句なしに一縮みになった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
彼は前にかつてまっ白な二十日鼠はつかねずみを見たことがあったが、少しもこわくはなかった。けれども彼はまだ口をつぐまなかった。
妖婆の呼吸いきが絶えると、梅田十八の姿は一寸ぐらいの小さな二十日鼠はつかねずみの姿となって——一寸はすこし短かすぎるかな
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どういう態度で返事をしてやろうかという事が、いちばんに頭の中で二十日鼠はつかねずみのようにはげしく働いたが、葉子はすぐ腹を決めてひどく下手したでに尋常に出た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まだ生々いきいきとしている小さな金壺眼かなつぼまなこは、まるで二十日鼠はつかねずみが暗い穴からとんがった鼻面はなを突き出して、耳をそばだてたり、髭をピクピク動かしながら、どこかに猫か
それが、おマンはん、恐いどころか、えろう優しい、……新之助はんの口でいうと——二十日鼠はつかねずみみたよな、色白で、コチョッコリした、おとなしい人。……やそうやし。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「なあに、トム公のことだもの、捕まったって、二十日鼠はつかねずみじゃないが、すぐにけ出して来るさ」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
タヌは昨夜ゆうべからの優しい夢がまだ醒めぬと見え、襤褸ぼろくずの巣の奥から、眼だけ出した二十日鼠はつかねずみのようなこの子供たちを、世にもいとしいものを見るような眼付きで眺めながら
かえる焼串やきぐし、小さい子供の指を詰めたまむしの皮、天狗茸てんぐだけ二十日鼠はつかねずみのしめった鼻と青虫の五臓とで作ったサラダ、飲み物は、沼の女の作った青みどろのお酒と、墓穴から出来る硝酸酒とでした。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お婆さんは、にこにこ笑いながら、おなじように杖一本で、箱のなかにいた六匹の二十日鼠はつかねずみを六匹のたくましい馬に変え、鼠をいきな馭者ぎょしゃに変え、六匹の蜥蜴とかげを六人のりっぱなお供に変えました。
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
ヤマハハはかくとも知らず、ただ二十日鼠はつかねずみがきたと言えり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
うなりをあげて、鋪道ほどう紙屑かみくずやボロきれをさらって行き、直角に突き出された横文字の看板が、二十日鼠はつかねずみのようなキーキーした音をたてている——夕方からは、それに、雨もまじって
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「ひとを二十日鼠はつかねずみだと思ってるのね。いいわ。その代りに、明日からはもう一ト蒸籠せいろうも二タ蒸籠もきっとよけいに売っておいでよ。もし明るいうちになぞ帰って来たら家へ入れないから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)