中背ちゅうぜい)” の例文
「ござります。四十くらいの中肉中背ちゅうぜいで、ほかに目だつところはございませぬが、たしかに左手の小指が一本なかったはずでござります」
老人はせぎすの中背ちゅうぜいで、小粋な風采といい、流暢な江戸弁といい、まぎれもない下町の人種である。その頃には、こういう老人がしばしば見受けられた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中背ちゅうぜいがたの上にラファエルのマリア像のような線の首筋をたて、首から続くきよらかなあごの線を細いくちびるが締めくくり、その唇が少し前へ突き出している。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
せぎすの人が多いものですから、どっちかといえば瘠せがたの顔で、まず、中肉……したがって身長なども中背ちゅうぜい……身体からだ全体く緊張した体格に致したことで
引緊ひきしまった肉づきのい、中背ちゅうぜいで、……年上の方は、すらりとして、細いほど痩せている。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八人の警吏が各々めいめい弓張ゆみはりを照らしつつ中背ちゅうぜいの浴衣掛けの尻端折しりはしおりの男と、浴衣に引掛ひっかけ帯の女の前後左右を囲んで行く跡から四、五十人の自警団が各々提灯ちょうちんを持ってゾロゾロいて行った。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大兵肥満だいひょうひまんでいらっしゃいますが、若殿様は中背ちゅうぜいの、どちらかと申せば痩ぎすな御生れ立ちで、御容貌ごきりょうも大殿様のどこまでも男らしい、神将のようなおもかげとは、似もつかない御優しさでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「さようのう。まず、ああいうふうのが中肉中背ちゅうぜいと申そうが、娑婆しゃばにいたときはよほどの荒仕事に従事いたしおったとみえて、骨格なぞは珍しいくらいがんじょうでござったわい」
見ると彼のかたわらには、血色のいい、中背ちゅうぜい細銀杏ほそいちょうが、止め桶を前に控えながら、濡れ手拭を肩へかけて、元気よく笑っている。これは風呂から出て、ちょうど上がり湯を使おうとしたところらしい。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)