世過よす)” の例文
何も時世時節ときよじせつならば是非もないというような川柳式せんりゅうしきのあきらめが、遺伝的に彼の精神を訓練さしていたからである。身過みす世過よすぎならば洋服も着よう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
贔負目ひいきめには雪中せつちゆううめ春待はるまつまの身過みす世過よす小節せうせつかゝはらぬが大勇だいゆうなり辻待つじまちいとま原書げんしよひもといてさうなものと色眼鏡いろめがねかけて世上せじやうものうつるは自己おのれ眼鏡めがねがらなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何も結構な家に生れて世過よすぎに不自由のない娘をそれほどに教え込まずとも鈍根どんこんの者をこそ一人前に仕立ててやろうと力瘤ちからこぶを入れているのに、何という心得違いをいうぞといった
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「では、どうぞあなたがここへ引移ってくださいませ。こんなむさい所でお気の毒ですが、たとい賃仕事ちんしごとをしてなりとも、わたしはわたしで世過よすぎをして、あなたに御迷惑は懸けませぬ」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
この伝統の強い三河きの仲間を去って、ふたたび飄乎ひょうことして、浪々の身過みす世過よすぎを送っていたかもしれない——と常に思うにつけて、その恩を、その知己を、感謝している彼なのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)