上分別じょうふんべつ)” の例文
そんならそうと早く注意してくれればいいのにと思いながら、彼はとにかく夫人の鑑定なり料簡りょうけんなりをおとなしく結末まで聴くのが上分別じょうふんべつだと考えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやが上にも下に出て、とにかく、人が来るまでなだめて置くのが上分別じょうふんべつと思ったから、大迫玄蕃も一生懸命だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御大切おたいせつなおしなゆえ、粗相そそうがあってはならんよって、はようおかえもうすが上分別じょうふんべつと、おもってさんじました」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いっこくもご猶予ゆうよは無用、この場で伊那丸いなまるを首にいたし、あの鎖駕籠くさりかごへは宝物のほうを入れかえにして、寸時もはやく家康公いえやすこうへおとどけあるが上分別じょうふんべつとこころえます
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とかく人間と云う者は、何でも身のほどを忘れないようにつつしみ深くするのが上分別じょうふんべつです。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お宿にはほんの十四五人がつめているだけでござりますから、しょせん今のまにお討ちとりなされるのが上分別じょうふんべつかとぞんじます、いそぎ御決心なされて御にんずをお出しあそばされ
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
慾ばって二兎を追うよりも、一先ず不二子さんを大鳥家に連れ帰るのが上分別じょうふんべつだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは両方を散らさぬ先に引き分けるが上分別じょうふんべつとは思い浮んだけれども、あまりによく気合が満ちているので、行司の自分も釣り込まれそうで、なんと合図のはさみようもないくらいです。
そのはてがとうとう露人の病院に入院して肺結核という診断を受け、暫らくオデッサあたりに転地するかさなくば断然帰朝した方が上分別じょうふんべつであると、医師からも朋友からも切に忠告された。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
けれどもただ眼の前に、美土代町みとしろちょうと小川町が、丁字ていじになって交叉している三つ角の雑沓ざっとうが入り乱れて映るだけで、これと云って成功をいざなうに足る上分別じょうふんべつは浮ばなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが何よりの上分別じょうふんべつ、このさい一番の思いつきでございます……とあって、左膳は、成功後の賞美ほうびを約して密々のうちに、つづみの与吉を奥州中村へ潜行させることになった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それがおたがいの上分別じょうふんべつ
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
忽然こつぜん安井の事を考え出した。安井がもし坂井の家へ頻繁ひんぱん出入でいりでもするようになって、当分満洲へ帰らないとすれば、今のうちあの借家しゃくやを引き上げて、どこかへ転宅するのが上分別じょうふんべつだろう。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)