七草ななくさ)” の例文
五日ごろから春の七草ななくさ、すなわち小学校の冬季休業のあいだは、元園町十九と二十の両番地に面する大通り(麹町三丁目から靖国やすくに神社に至る通路)
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長吉は風邪かぜをひいた。七草ななくさ過ぎて学校がはじまった処から一日無理をして通学したために、流行のインフルエンザに変って正月一ぱい寝通してしまった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
七草ななくさの日に、職人すがたに変装して、壁辰の家をおとのうたとき、いつものように手を拭きふき台所から出て行った娘のお妙は、その男のあまりの綺麗きれい
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「理屈をおっしゃれば、それにちがいありませんが、七草ななくさまでがお祭のお正月で、それから後はただのお正月です」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
正月の七草ななくさのすんだころ、克子はまだ正月気分が忘れられなかったのか、お母さんの知らぬまに一帳羅いっちょうらの洋服を着て出ていき、大きな鉤裂かぎざきをこしらえてもどってきた。
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その晩は散歩に出る時間を倹約して、女二人と共に二階にあがって涼みながら話をした。僕は母の命ずるまま軒端のきば七草ななくさいた岐阜提灯ぎふぢょうちんをかけて、その中に細い蝋燭ろうそくけた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きな天理教会、小さな耶蘇教会で、東京から人を呼んで説教会がある。府郡の技師が来て、農事講習会がある。節分は豆撒まめまき。七日が七草ななくさ。十一日が倉開き。十四日が左義長さぎちょう
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お嬢さんもそのうちの一人である。けれども午後には七草ななくさから三月の二十何日かまで、一度も遇ったと云う記憶はない。午前もお嬢さんの乗る汽車は保吉には縁のない上り列車である。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
明日入浴出来たら七草ななくさまでにかえれるのではないかしら。
『この絹地へ、秋の七草ななくさを描いて頂きたいのですが』
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殿中のお庭先で何者かに首をられ、そして、その首が新御番詰所へ投げ込まれて、同時に、お帳番の若侍神尾喬之助が出奔しゅっぽんした元日から七日経った、七草ななくさの日の午後である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
七草ななくさも過ぎ、蔵開きの十一日も過ぎてくると、かれらの影もだんだんに薄れて、日あたりの向きによって頭の上からけて来るのもあった。肩のあたりからくずれて来るのもあった。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七草ななくさ牧野まきのが妾宅へやって来ると、おれんは早速彼の妻が、訪ねて来たいきさつを話して聞かせた。が、牧野は案外平然と、彼女に耳を借したまま、マニラの葉巻ばかりくゆらせていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
去年の正月も七草ななくさを過ぎたころ、見物に出かけた、その時木馬館もくばかんの後あたりに小屋掛をして、裸体の女の大勢足をあげて踊っている看板と、エロス祭と大書した札を出しているのがあった。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
七草ななくさまでという——その終りの正月七日だった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮れから催していた雪ぞらも、春になってすっかり持ち直したが、それも七草ななくさを過ぎる頃からまたくもった日がつづいて、藪入り前の十四日にはとうとう細かい雪の花をちらちら見せた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちょうど七草ななくさの日だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)