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なつとう
父は痰を病んでから、いつのまにか何かの神に
願を掛けて好きなものを断つことを
盟つた。ただ、酒も飲まず
煙草も吸はぬ父は、つひに
納豆を食ふことを
罷めた。
汁椀は
手に
取つて、
椀の
腹を
左の
手に
輕く
打ちつけるやうにして
納豆を
平にした。おつぎは
午餐から
開墾地へ
出る
時、
菜にする
干納豆を
汁椀へ
入て
彼の
爲に
膳を
据ゑて
行つたのである。
「
雞納豆くつたつて
死なねえ
内に
水飮ませりや
何ともねんだもの、
水飮ませりやそんなに
騷ぐにやあたらねえ」
卯平はいつて
自分でも
又飮ませた。
與吉の
枕元に三
人は
徹宵眠らなかつた。
みちのくの
仙台よりおくりくれしてふ
納豆を食む心しづけさ