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つきかげ
枝折戸閉ぢて、
椽に
踞す
程に、十時も過ぎて、
往来全く絶へ、月は頭上に
来りぬ。一
庭の
月影夢よりも
美なり。
亞尼は、
今は、
眞如の
月影清き、ウルピノ
山中の
草の
庵に、
罪もけがれもなく、
此世を
送つて
居る
事でせうが、あの
惡むべき
息子の
海賊は、
矢張印度洋の
浪を
枕に
月光ははやもさめざめ……涙さめざめ……
淡い夜霧が田畑の上に動くともなく流れて、
月光が柔かに
湿うてゐる。夏もまだ深からぬ夜の甘さが、草木の魂を
蕩かして、
天地は限りなき
静寂の夢を
罩めた。