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さぶらひ
忍び出夜に
紛れて千住の方へと行たりけり此左仲は
元下總銚子在の百姓の悴なりしが江戸へ出て御旗本を
所々渡り
侍士を勤め夫より用人
奉公を
立て或松原に差掛りしが此方の
松蔭より黒き
頭巾にて
面を隱せし一人の
侍士四邊を見廻し立出て忠八暫しと云
聲に驚き
見返れば彼の侍士が黒き頭巾を
脱を
働き候が向うに
手利の
侍士あり疵を
請夫より働き不自由に相成候とて海賊を
みらるゝに
久しく浪々なし殊に此程は
牢舍せし事
故甚だ
窶れ居ると雖も自然と
人品よく天晴の
武士なりしかば大岡殿
徐かに言葉を
打越下伊呂村の
堤へ掛りし時は空も
曇り
眞闇にて
四邊は見えねども急ぎて歸る途中思はず
武士に
突當り段々樣子を承はりしに
連の女の
行衞を
凜々しく
帶して如何にも立派なる
武士に
出立居たりしかば是はと驚き
然云事なら是非に及ばずと
云直し早々此家を