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かぐらざかした
五月雨の
陰氣な
一夜、
坂の
上から
飛蒐るやうなけたゝましい
跫音がして、
格子をがらりと
突開けたと
思ふと、
神樂坂下の
其の
新宅の
二階へ、いきなり
飛上つて
やがて
日の
暮るまで
尋ねあぐんで、——
夜あかしの
茶飯あんかけの
出る
時刻——
神樂坂下、あの
牛込見附で、
顏馴染だつた
茶飯屋に
聞くと、
其處で……
覺束ないながら
一寸心當りが付いたのである。
午少し
前迄は、ぼんやり
雨を
眺めてゐた。
午飯を
済ますや否や、
護謨の
合羽を引き掛けて表へ出た。
降る
中を
神楽坂下迄
来て
青山の
宅へ電話を
掛けた。