いた)” の例文
そのひかりの中にかすかに人らしい姿すがたえたので、保名やすなはほっとして、いたあしをひきずりひきずり、岩角いわかどをたどってりて行きますと
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しなには與吉よきち惡戯いたづらをしたり、おつぎがいたいといつてゆびくはへてせれば與吉よきち自分じぶんくちあてるのがえるやうである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
風が傷口からふきこむと、いかにも悲しそうな音楽をそうして、この気のどくなまつがみずからいたみをうったえる声のように聞かれた。
三時間目に菊池きくち先生がまたいろいろ話された。行くときまった人はみんな面白おもしろそうにして聞いていた。僕は頭があつくていたくなった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
にがい/\くすりでしたが、おなかいたときなぞにそれをむとすぐなほりました。おくすりはあんなたかやまつちなかにもしまつてあるのですね。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
代助は立ちながら、画巻物ゑまきもの展開てんかいした様な、横長よこなが色彩しきさいを眺めてゐたが、どう云ふものか、此前このまへて見た時よりは、いたく見劣りがする。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
春枝夫人はるえふじんいた心配しんぱいして『あまりに御身おんみかろんじたまふな。』と明眸めいぼうつゆびての諫言いさめごとわたくしじつ殘念ざんねんであつたが其儘そのまゝおもとゞまつた。
「病気ってわけじゃないんだけど、ひずめのあいだにとげみたいなものがささっちゃって、そいつがいたいもんだから歩けないんだよ!」
吟味ぎんみせしに殘金十一兩りたり是を思へば文右衛門盜賊たうぞくでなき事は明白めいはくなり斯程かほどに證據ある上は汝何程陳ずる共せんなき事ぞいたき思ひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天使てんしでありますから、たとえやぶられても、かれても、またかれても、るわけではなし、またいたいということもなかったのです。
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いゝよ親方おやかたからやかましくつてたら其時そのときこと可愛想かあいさうあしいたくてあるかれないとふと朋輩ほうばい意地惡いぢわる置去おきざりにてゝつたと
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これでひるなやまされていたいのか、かゆいのか、それともくすぐつたいのかもいはれぬくるしみさへなかつたら、うれしさにひと飛騨山越ひだやまごえ間道かんだう
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかしそこから南の方へまわって、紀伊国きいのくに水門みなとまでおいでになりますと、お傷のいたみがいよいよ激しくなりました。命は
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
針小棒大しんしょうぼうだいの記事も沢山あったに違いありません。然し打明けて云えば、其記事については、私は非常に心をいたむる事が多かった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「これッ。武田家たけだけ宝物ほうもつをしずめた湖水は、ここにそういあるまい、うそいつわりをもうすと、いたいめにあわすぞ、どうじゃ!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふふふふ、きん、なんできゅうおしのようにだまんじゃったんだ。はなしてかせねえな。どうせおめえのはらいたわけでもあるめえしよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いたく細君に気遣われしなれ、「さんづけにも呼ばれしなれ、顔に傷をも受けしなれ、今は少しの不審も無し彼れが事は露ほども余が心に関せず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
乳母 おゝ、辛度しんど! 暫時ちいとまァやすましてくだされ。あゝ/\、骨々ほね/″\いたうていたうて! ま、どのくらゐほッつきまはったことやら!
何時も何時もわが歩みの目標となる軟かなるその壁の色はまだ芽にいでぬ薬草のにほひいたき畑のあなたに暮れゆかんとす。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あっいたと思わず身体をちじめたとき、博士の足は、その煙突から一丁も放れた或る喫茶店の窓にひっかかって、靴がポロリとげたのであったから。
空気男 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
そのうえ、けがのために視力しりょくがすっかりよわってしまってね。ときどきいたみだすと、何時間もくらがりの中で、じっとしていなければならないんだ。
昨日きのふ興奮こうふんためにか、かれつかれて脱然ぐつたりして、不好不好いやいやながらつてゐる。かれゆびふるへてゐる。其顏そのかほてもあたまひどいたんでゐるとふのがわかる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私は何か? 心のいたみと道義の爲めのくるほしい努力の中にあつて私は自分をみ嫌つた。私は自讃から、否自尊の心からさへ何の慰めも得なかつた。
大入道は、おそろしいうなり声を立てて、いたいのと、腹が立つのとで、とび起きました。そして、うでをのばして、私どもをつかまえようとしました。
其位そのくらゐぢや滿足まんぞく出來できないわ』といたましげなこゑあはれなあいちやんがつぶやいて、さておもふやう、『うかして芋蟲いもむしおこりッぽくしない工夫くふうはないものかしら』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「あ、いた! そんなひどい事をなさらなくても、其処そこの角まで参ればお放し申しますから、もう少しの間どうぞ……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
病身ながら、鶴吉は若い丈けに気を取り直して、前よりも勉強して店をしたが、められるだけの力を籠め切つて余裕ゆとりのない様子が見るにいたましかつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
露霜つゆしもいためられて、さびにさびたのこりの草花に、いいがたきあわれを感じて、主人はなんとなしかなしくなった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
お角もこのごろは、いたかゆしのていで、興行は大当りに当ったが、お銀様というものに逃げられたのがしゃくで、金助をとっちめてみたところがはじまらない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何ぞまた訳でもあるような気イしてめったなこといわれへん思てるうちに、「ああいた、……またいとなって来た」いうておなかさすり出しなさったのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また豊野の停車場にては、小荷物あずけんといいしに、聞届ききとどけがたしと、官員がほしていいしを、いためしに、後には何事をいいても、いらえせずなりぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるににすねたる阿呆あはういた文学者ぶんがくしや斥罵せきばすれども是れ中々なか/\識見しきけん狭陋けふろう現示げんじせし世迷言よまいごとたるにぎず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
紫の羽織を着てゐた頃の綾さんの姿を思浮べると、遉に胸頭に輕いいたみを感ぜぬでもなかツた。叔父に「もらツたら何うだ。」と謂はれたことなども思出した。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さ「あいたた/\恐れ入りました、上げますよ/\、上げますから堪忍して下さい、娘の貰引もらいひきのどを締る奴がありますか、軍鶏しゃもじゃアあるまいし、上げますよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それからね、そのとんぼは、おこって大蜘蛛ぐものやつにくいかかりました。くいつかれた大蜘蛛ぐもは、いたい! いたい! 助けてくれってね、大声にさけんだのですよ。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「久兵衛さん、お前は心掛けがよくねえから、このくれえのいた事はけえって気つけかもしれねえが、当方こちとらあその贋元にせげんにちょっと心当りがあろうというもの——。」
出家した朱雀院も、肉親のきづなは断ち切れぬ歎きのまゝに、かう言つてかきくどくわけだが、女三の宮の悲劇とともに、当時の読者の心をいたくうつたにちがひない。
いたかゆしというわけで、親達もまだ迷っているうちに、婿取りの姉の方がこんなことになってしまったから、妹をよそへやるという訳には行きますめえ。どうなりますかね
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今朝けさあさかりがねきつ春日山かすがやまもみぢにけらしがこころいたし 〔巻八・一五二二〕 穂積皇子
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
旦那、多分、おいたはしいお心からでは御座んせんか。暴風あらしの晩にたつた一邊かいだばかりで、一生忘られない花の香もありますから。たしか、今暴風の晩と仰有おつしやいましたね。
わるい花 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
こゝらにも各人が作の價値かち批判ひはんする心持の相違さうゐがあると見えますが、「和解」にゑがかれてゐる作のテエマ、即ち父と子のいたましい心の爭鬪さうとうに對してはたらいてゐる作者の實感じつかん
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
柔道じゅうどうの受け身を知らぬモンクス、後ろ頭を板の間でしたたか打った。こしも打った。そのいたさ!
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
さるに茲年ことし四月うづきころ、かの童児わらはかりそめの病に臥しけるが、日をておもくなやみけるを四一いたみかなしませ給うて、四二国府こうふ典薬てんやく四三おもだたしきをまで迎へ給へども
べつ特別とくべついたむわけでもなく外面ぐわいめんからも右足うそく膝關節しつくわんせつは、なんの異常いじやうもなかつたのであるけれども、自由じいう曲折きよくせつ出來できないめに、學校がくかうでは作法さはふ體操たいさうやすまなければならなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
すると傍聴者ぼうちょうしゃのなかに、いたくこの演説がしゃくさわった者があって、講演者を罪せんとたくらみ、彼は御真影の前をもはばからず猥褻わいせつなることばを用いたと称して問題を惹き起こしたことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一つは牛の種類が良いからですし、一つは中国筋で牛をう者が労役させると直段ねだんが廉くなりますから極くいたわって牛を使います。関東では牛のたおれるまで追使おいつかってそれからつぶします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
小言こごとがましき時にあたって慈愛の情の平常つねまさり病子を看護するを見たり、爾無限の慈母も余のいためる時に余を愛する余が平常無事の時の比にあらざるなり、余の愛するもの失してのち
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
この二人の上京は、実のところ葉之助にとっては、いたかゆしというところであった。彼は依然としてお露に対しては強い恋を感じていた。出逢って話すのは、もちろん非常に楽しかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう彼女かのじよわたしこゝろいたみをさすつてくれようとしてゐるらしいのであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
つゝみ枯草かれくさうへつて、但馬守たじまのかみおほきなこゑ新任しんにん挨拶あいさつねて一ぢやう訓示くんじ演説えんぜつをした。演説えんぜつすこしもみゝいためないでくことの出來できものは、おほくの與力よりき同心どうしんちうほとんど一人ひとりもなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)