あたた)” の例文
かがやいて、あたたかなかぜが、やわらかなくさうえわたるときは、ふえうたこえは、もつれあって、あかるいみなみうみほうながれてゆきました。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
このにおいは、震災直後の東京を見た人たちの鼻に死ぬまで付いているのだそうで、云うに云われぬ陰惨な気持ちをあたたむるものである。
洋服ようふくをきればすぐ人にあやしまれて、追いまわされるし、ぼくは、もっとあたたかい地方へいってしまいたいと思って、この港町みなとまちへきたのだ
火がなくッたってあたたかい、人間の親方おやかたはあんなにつめたくッてとげとげしているのに、どうしてれた麦藁むぎわらがこんなに暖かいものだろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お早う今朝はあたたかですね」本線のシグナル柱は、キチンと兵隊へいたいのように立ちながら、いやにまじめくさってあいさつしました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ト日があたってあたたたかそうな、あかる腰障子こししょうじの内に、前刻さっきから静かに水を掻廻かきまわ気勢けはいがして居たが、ばったりといって、下駄げたの音。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太陽はかがやいていて、それはずいぶんあたたかかった。きくいもが金の花びらを開いていた。小鳥がこずえの中やかきねの上で鳴いていた。
それに女たちが五色の短冊たんざくをつけて、台に載せてき廻わり、最後に浜に持出して注連飾しめかざりと共に焼き、それからその火に身をあたためつつ
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
にわ若草わかくさ一晩ひとばんのうちにびるようなあたたかいはるよいながらにかなしいおもいは、ちょうどそのままのように袖子そでこちいさなむねをなやましくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おばあさんは、囲炉裏いろりにまきをくべて、あたたかくしてくれたり、おかゆをいてお夕飯ゆうはんべさせてくれたり、いろいろ親切しんせつにもてなしてくれました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
兄妹は少しでもあたたまろうと、たがいにぎっしりとき合っていました。そしてそのまましずかなねむりに落ちて行きました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「きょうは先生、ぜひとも先日せんじつ復讐ふくしゅうをするつもりでやってきました。こうすこしぽかぽかあたたかくなってきますと、どうも家にばかりおられませんから」
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
もう陽気ようきあたたかで、空はまっさおにれわたり、太陽たいようは高いところから、ぽかぽかと暖かな光りをきらめかせていましたが、わたしの心は、まっくらでした。
かれらにあつちやの一ぱいみたかつたのである。かれかまどそこにしつとりとちついたはひ接近せつきんしてかざしてた。まだやはらかにしろはひかすかあたたかゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
涼風すずかぜはそよそよと彼の白髪交りの短い髪の毛を吹き散らしたが、初冬の太陽はかえってあたたかに彼を照し、日に晒された彼は眩暈を感じて、顔色は灰色に成り変り
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「わたしもそのお方にお願いしておしどりにしていただきます。」と恋人こいびとは、あたたかい手を若者の手の上にかさねていった。「それは真実しんじつの心か。」と若者は念をおした。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
というのは親子夫婦共働きょうどうし、雪をんで家に帰れば身体すでに疲憊ひはいし、夕食を終ればたがいに物語るだけの元気もせ、わずかに拾ったたきぎに身をあたため、あんむさぼるがごときはい
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ところでこのペンギンは年に一回卵を生み、親がこれを抱いてあたためる。しかし親たちは抱きつつ行動こうどうしなければならぬ。しかもまた抱くにふさわしい腕も胸もととのっていないのだ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
しらぬひ筑紫つくし綿わたにつけていまだはねどあたたけく見ゆ 〔巻三・三三六〕 沙弥満誓
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
むらさき香煙こうえんが、ひともとすなおに立昇たちのぼって、南向みなみむきの座敷ざしきは、硝子張ギヤマンばりなかのようにあたたかい。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
自分はもって来た小説をふところから出して心長閑のどかに読んで居ると、日はあたたかに照り空は高く晴れ此処ここよりは海も見えず、人声も聞えず、なぎさころがる波音の穏かに重々しく聞えるほか四囲あたり寂然ひっそりとして居るので
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
正吉しょうきち父親ちちおやは、自分じぶんおとこで、着物きものえないが、だれかひとにたのんで、子供こどもにだけなりとあたたかい着物きものせてやりたいとおもいました。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
それにバターはなくっても、あたたかいの火がどんなにいい心持ちであったろう。夜着の中に鼻をつっこんでねた小さな寝台ねだいがこいしいな。
とって、ふすまをかぶってこもっておりましたが、きょうあたりはあたたこうござりますゆえ、起き出そうかと思うていたところでした
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手も足も、ずきずきいたまなくなって、まるでストーブにあたっているように、ぽかぽかとてもあたたかくなった。
少しはなれたお寺の庫裡くりまどからあたたかそうなの光がれて見えましたが、雪が子供こどもたちのむねほどももっていましたので、そこまでも行くことも出来ません。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
今夜はあたたかです。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さむゆきくにまれたものが、あたたかな、いつもはるのような気候きこうくにまれなかったことをい、貧乏びんぼういえまれたものが
小さな赤い花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真昼まひるの日ざかりに、わたしたちはうちを出て、カピを先に立てて、手を組みながらそろそろと歩いた。その年の春はあたたかで、日和ひよりがよかった。
やがて、手にいききかけて、かじかんだゆびあたためると、いきなり、寝床ねどこいたの上にあった自分の帽子ぼうしをつかんで、そっと手さぐりで、地下室ちかしつからぬけだした。
万吉は、ひやッこい手を、あたためてやる気で、二人の手を一ツずつ握ってやりながら
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、こちらは、こうして、あたたかになったけれど、すずらんのえていた、きたくに野原のはらは、まだゆきふかかぜさむかったのです。
さまざまな生い立ち (新字新仮名) / 小川未明(著)
「わたしは着物もたんとないが、かわいたシャツにチョッキがある。これを着てまぐさの下にもぐっておいで。じきにあたたかになってねむられるよ」
しかし、ここばかりは、ふゆともおもえぬあたたかさでありました。叔父おじさんは心配しんぱいそうに、病人びょうにんかおをのぞきこみました。よくねむっています。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
かけ物の毛布もうふはうまやから、もう古くなって馬が着てもあたたかくなくなったようなしろものを、持って来たにちがいない。
「だいぶんみずあたたかになった。旅行りょこうにはいい時分じぶんである。幾日いくにちかかるかしれないが、このひろ領地りょうち一巡ひとめぐりしてこようとおもう。」
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
親方を引き取って行った巡査じゅんさは、わたしがあたたまって正気づいたら、聞きたいことがあると言ったそうだ。その巡査がいつ来るか、あやふやであった。
あたたかなみなみかぜいてきました。それからというもの、毎日まいにちのように、みなみかぜつのって、ゆきはぐんぐんとえていきました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うつくしいちょうは、自分じぶんたまごをどこにんだらいいかとまどっているふうでありました。なるたけあたたかな、安全あんぜん場所ばしょさがしていたのでした。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
はる雨催あめもよおしのするあたたかな晩方ばんがたでありました。少年しょうねんは、つかれたあしきずりながら、あるふるびたまちなかにはいってきました。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)
吉雄よしおは、火鉢ひばちまえにいって、すわってあたためました。いえそとには、かぜいていました。そしてゆきうえこおっていました。
ある日の先生と子供 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのはずで、いくら、木々きぎのつぼみはふくらんできましても、この垣根かきね内側うちがわには、あたたかな太陽たいよう終日しゅうじつらすことがなかったからであります。
小さな草と太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちいさな火鉢ひばちにわずかばかりのすみをたいたのでは、湯気ゆげてることすらぶんで、もとよりしつあたためるだけのちからはなかった。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ある金持かねもちは不思議ふしぎゆめました。自分じぶんは、とおみなみたびをしたのであります。それはあたたかな、あかるいくにでありました。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もうふゆってしまうのだと、からだまるくして、心地ここちいい、あたたかなかぜはねかれながら、いままでもれていたやまはやしや、また野原のはら木立こだち
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これらの男女だんじょは、いずれも牧人ぼくじんでした。もうこの地方ちほうは、あたたかで、みんなははたけや、たがやさなければなりませんでした。
月とあざらし (新字新仮名) / 小川未明(著)
かぜのないあたたかなでした。おみやまえしんちゃんと、せいちゃんと、そのほかおんなたちがいっしょになってあそんでいました。
仲よしがけんかした話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひろやかなとおりには、ひかりあたたかそうにあたっていました。このみちめんして、両側りょうがわには、いろいろのみせならんでいました。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのとき、おなじように、となりのおばあさんが、やはりうちまえて、日当ひあたりのいいあたたかな場所ばしょにむしろをいて、ひなたぼっこをしていました。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこは、ずっとあるしまみなみはしでありまして、気候きこうあたたかでいろいろなたか植物しょくぶつが、緑色みどりいろしげっていました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)