齷齪あくさく)” の例文
これを要するに諸人才器齷齪あくさく、天下の大事を論ずるに足らず、が長人をして萎薾いびせしめん。残念々々。足下そっか久坂をのみ頼むなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
想像は必らずしもダニヱルの夢の如くに未来をさとらしむるものにあらざるも、朝に暮に眼前の事に齷齪あくさくたる実世界の動物が冷嘲する如く、無用のものにはあらざるなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
よつすみやかやかた召返めしかへし、いて、昌黎しやうれいおもてたゞしうしてふ。なんぢずや、市肆しし賤類せんるゐ朝暮てうぼいとなみに齷齪あくさくたるもの、一事いちじちやうずるあり、なんぢまなばずしてなにをかなすと、叔公をぢさん大目玉おほめだまくらはす。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は一昨年をととしの冬英吉利イギリスより帰朝するや否や、八方に手分てわけして嫁を求めけれども、器量のぞみ太甚はなはだしければ、二十余件の縁談皆意にかなはで、今日が日までもなほその事に齷齪あくさくしてまざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は世界を以て家とするの大規模ある空気を呼吸し、我は日本の外日本あるを知らざる鎖国的の小籌しょうちゅう齷齪あくさくたる情趣、隠約いんやくの間に出没し、ために隔靴掻痒かっかそうようの感なきあたわざらしむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
既に藩許を得るもいまだ旅券を得ず、彼ごう遅疑ちぎせず、曰く、「一諾いちだく山よりも重し、俸禄捨つべし、士籍なげうつべし、国に報ゆるの業、何ぞ必らずしも区々常規の中に齷齪あくさくするのみならんや」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)