鴆毒ちんどく)” の例文
「耳掻き一杯ほどの鴆毒ちんどくでも、何百金を積まなければ手に入るものではない、——イヤ何百金積んでも手に入らないのが普通だ」
ソクラテスは鴆毒ちんどくおわったち、暫時の間は、彼方此方あちらこちらと室内を歩みながら、平常の如くに、門弟子らと種々の物語をして
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
幸田露伴先生宴会の愚劣なるを痛罵つうばし宴席の酒を以て鴆毒ちんどくなりと言はれしが世の人の心はまたさまざまなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
されば悟れるとは己れが迷を知ることにして、そをだつせるのいひにはあらず。哀れ、戀の鴆毒ちんどくかすも殘さず飮みせる瀧口は、只〻坐して致命の時を待つの外なからん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
必ずや鴆毒ちんどくにちがいないので、鴆毒ならば南蛮渡来の品だから、容易にその出所を知ることは困難ですが、しかし、いよいよとならばそれもまた大いに必要な探査でした。
随分お大名にありました話で、只今なればモルヒネなどという劇剤もありますが、其の時分には何か鴆毒ちんどくとか、あるいは舶来の礜石よせきぐらいのところが、毒のはげしいところです。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小説を忌む鴆毒ちんどくに等しい文芸憎悪者にも馬琴だけは除外例になって感服されてるが、いずくんぞ知らん馬琴は忠臣孝子よりは悪漢淫婦を描くにヨリ以上の老熟を示しておる。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
記録によれば正月の末、城下千光寺の徳命観梅とくめいかんばいの日でござった。義伝公の梅見の酒へ毒を盛りました。それは世にも恐ろしい鴆毒ちんどく、さすがの豪傑もほりの石橋まで馬を返してたおれました。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思切ッてはいないが、思切らぬ訳にもゆかぬから、そこで悶々むしゃくしゃする。利害得喪、今はそのような事に頓着無い。只おのれに逆らッてみたい、己れの望まない事をして見たい。鴆毒ちんどく? 持ッて来い。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
南禅寺霊三和尚の慶長二年の氏郷像賛に「可惜談笑中窃置鴆毒ちんどく
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
熟視みつむるは死よりも暗き鴆毒ちんどく
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
斑猫はんめう鴆毒ちんどくは容易に素人の手に入らず、山野の毒草は江戸の町では得難く、中毒死といふと、一番先に考へられるのは、この岩見銀山でした。
そう言ってふとんの端を手から離して、もう二度と見る勇気も別れの惜しみもないようにその手を憮然ぶぜんと胸にんでしまった。ゆうべ信濃をして弟に鴆毒ちんどくをのませたのは兄の自分である。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「左様。まさしく鴆毒ちんどくじゃ」
斑猫はんみょう鴆毒ちんどくは容易に素人の手に入らず、山野の毒草は江戸の町では得難く、中毒死というと、一番先に考えられるのは、この石見銀山でした。
何后は、それを知って、大いに嫉妬し、ひそかに鴆毒ちんどくを盛って、王美人を殺してしまった。そして、さぬ仲の皇子協を、霊帝のおっ母さんにあたるとう太后の手へあずけてしまったのである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「曲者はお吉を殺した上、二代目の七兵衞まで殺した。生菓子へ入れた毒は、其邊の藪に澤山ある×××××だ。あれは味が解らない上、鴆毒ちんどくよりも利く」
もってなら殺せるといわれても、鴆毒ちんどくでは殺したくない
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「曲者はお吉を殺した上、二代目の七兵衛まで殺した。生菓子へ入れた毒は、その辺のやぶに沢山あるトリカブトだ。あれは味が解らない上、鴆毒ちんどくよりも効く」