駈出かけい)” の例文
されどもかれは聞かざる真似して、手早くじょうを外さんとなしける時、手燭てしょく片手に駈出かけいでて、むずと帯際を引捉ひっとらえ、掴戻つかみもどせる老人あり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
舞台はやがて昨日きのうの通りに河端かわばた暗闘だんまりになって、劇の主人公が盗んだ金を懐中ふところに花道へ駈出かけいでながら石礫いしつぶてを打つ、それを合図にチョンと拍子木が響く。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
綾子はたまらず、「あれえ!」と血を絞る声を立てられしが、と座を立ちて駈出かけいだし、一室ひとまの戸を内より閉じて、自らその身を監禁せり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立見たちみの混雑の中でもあるし、長吉ちやうきちおどろいたまゝ黙つてゐるより仕様しやうがなかつたが、舞台はやがて昨日きのふの通りに河端かはばた暗闘だんまりになつて、劇の主人公がぬすんだ金を懐中ふところ花道はなみち駈出かけいでながら石礫いしつぶてを打つ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あとは途ぎれてことばなきに、お通はあるにもあられぬ思い、思わずって駈出かけいでしが、肩肱いかめしく構えたる、伝内を一目見て、あおくなりて立竦たちすくみぬ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それ目潰めつぶし。」とお丹の指揮さしず手空てあきの奴等、一足先に駈出かけいだして、派出所の前にずらりと並び、臆面おくめんもなく一斉に尾籠びろうの振舞、さはせぬ奴は背後うしろより手をたたきて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
照子はわくせく気をあせらし、腰元附添い駈出かけいでて、永田町へ……
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)