馳違はせちが)” の例文
りざまに、おゝ、一手桶ひとてをけつて女中ぢよちうが、とおもはなのさきを、丸々まる/\としたあし二本にほんきおろすけむりなかちうあがつた。すぐに柳川やながは馳違はせちがつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
左右に馳違はせちがふ少年の群を分けて、高等四年の教室へ近いて見ると、廊下のところに校長、教師五六人、中に文平も、其他高等科の生徒が丑松を囲繞とりまいて
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かの人々の弐千余円を失ひて馳違はせちがふ中を、梅提げて通るはが子、猟銃かたげ行くは誰が子、と車をおなじうするは誰が子、啣楊枝くはへようじして好ききぬ着たるは誰が子、あるひは二頭だちの馬車をる者
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、矢玉と馳違はせちがい折かさなる、人混雑ひとごみの町へ出る、と何しに来たか忘れたらしく、ここに降かかる雨のごとき火の粉の中。袖でうけつつ、手で招きつつ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馳違はせちがう人の跫音あしおと、もののひびき、洪水の急を報ずる乱調の湿った太鼓、人の叫声さけびごえなどがひとしきりひとしきり聞えるのを、奈落の底で聞くような思いをしながら、理学士は恐しい夢を見た。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)