ふるは)” の例文
夜の箱根の緑のやみを、明るい頭光ヘッドライトを照しながら、電車は静かな山腹の空気をふるはして、轟々と走りつゞけたかと思ふと直ぐ終点の強羅に着いてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
路傍みちばたに待つてゐる多數の男女は夜の寒さに身をふるはしながら、動いて來る車の灯を見る事もやと眞直な往來のかなたを伸び上るやうにして眺めてゐる。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
少年の群はながえにすがりて馬をはづしたり。こは自ら車をかんとてなりき。アヌンチヤタは聲をふるはせてこれを制せんとしつれど、その聲は萬人のその名を呼べるに打ち消されぬ。
彼はあやふきをすくはんとする如くひしと宮に取着きて匂滴にほひこぼるる頸元えりもとゆる涙をそそぎつつ、あしの枯葉の風にもまるるやうに身をふるはせり。宮も離れじと抱緊いだきしめて諸共もろともに顫ひつつ、貫一がひぢみて咽泣むせびなきに泣けり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あなた。そんなにわたしの事思つてゐて下さるの。嬉しいわ。」と常子は感情の激動に身をふるはせ、白井の胸に額を押しつけ、肩で息をしながら涙を啜りはじめた。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
女は身をふるはせてののしるとともに、念入おもひいりてのろふが如き血相をせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
女は身をふるはして泣沈めるなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)