韓信かんしん)” の例文
私は、ふと、木村重成しげなりと茶坊主の話を思い出した。それからまた神崎かんざき与五郎と馬子の話も思い出した。韓信かんしんまたくぐりさえ思い出した。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この素裸すはだかなクーリーの体格を眺めたとき、余はふと漢楚軍談かんそぐんだんを思い出した。昔韓信かんしんに股をくぐらした豪傑はきっとこんな連中に違いない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時々に行わるる標準をもって勝敗を定むることはほんの一時的で、市中の屠者としゃ韓信かんしんに勝ったといって得々とくとくたると同じである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
韓信かんしんは高祖に仕え、戦えど戦えど、ほとんど、勝ったためしのない大将であるが、最後の勝利は、ついに高祖のものとしたではありませんか。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初め五六たびは夫人もちょいとたてついて見しが、とてもむだと悟っては、もはや争わず、韓信かんしん流に負けて匍伏ほふくし、さもなければ三十六計のその随一をとりて逃げつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ほかに「池田大助捕物日記」が約八十篇、韓信かんしん丹次、平柄銀次、はやぶさの吉三などの捕物帳がそれぞれ五六篇ずつ、総計四百二三十の捕物小説を書いているだろうと思う。
漂母ひょうぼは洗濯ばばのことで、韓信かんしんが漂浪時代に食をうたという、支那の故事から引用している。しかし蕪村一流の技法によって、これを全く自己流の表現に用いている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
權「なにい、韓信かんしんが股アくゞりだと」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
武者修行と思ふ者一人もなく却て長脇ながわきざしの親方かたゞし追いはぎ盜賊などの惡漢わるものやつ姿すがたと見違へ甚だ迷惑めいわく致す事ありと云ひければ亭主は聞て否々いへ/\失禮しつれいながら人は見かけに寄ぬものにて韓信かんしんとか申人も元は洗濯婆々せんたくばゝの所に食客ゐさふらふに成り居りしとか又人のまた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不肖わたくしも、身を屈して、山野に賢人を求めること多年ですが、今の世に、張良、蕭何しょうか韓信かんしんのような人物を望むほうが無理だと思います。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし今日は当時勝ったという少年の名を知れる者がはたしてあるか。しかして韓信かんしんの名を知らぬ者が果たしてあるか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
韓信かんしん市井しせいあいだまたをくぐったことは、非凡の人でなければ、張飛ちょうひ長板橋ちょうばんきょう上に一人で百万の敵を退けたに比し、その勇気あるを喜ぶものはなかろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「それはちがう。昔の韓信かんしんを見たまえ。韓信も、降将こうしょう広武君こうぶくんに謀計をたずねておる」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の僭越せんえつな諫言をゆるして下さい。将軍はやはり稀世の英邁えいまいでいらっしゃる。常々ひそかに、将軍の風姿を見ておるに、いにしえ韓信かんしんなどより百倍もすぐれた人物だと失礼ながら慕っていました。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「馬超の勇は、いにしえの韓信かんしん英布えいふにも劣らないものです。今日、彼を討ち洩らしてのお引揚げは、山火事を消しに行って、また山中に火だねを残して去るようなもので、危険この上もありません」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)