青月代あおさかやき)” の例文
スッと、内からかご塗戸ぬりどをあけて、半身乗り出すように姿を見せた人物を仰ぐと、青月代あおさかやきりんとした殿とのぶり、二十はたち前後と思われます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狸の面、と、狐の面は、差配の禿はげと、青月代あおさかやき仮髪かつらのまま、饂飩屋の半白頭ごましおあたまは、どっち付かず、いたちのような面を着て、これが鉦で。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すばりとみごとに片耳を削って、深く肩まで切りさげられてはいたが、顔は、血によごれたその顔は、まぎれもなくさきほどのあの青月代あおさかやきの町人でした。
むろん、今の目まぜは、あっちの五分月代ごぶさかやきとこっちの青月代あおさかやきと、別人か同一人か、あっちにあの御家人がいたかどうか、それをたしかめに走らせた合い図なのでした。
凜々りんりんたる声が澄んで、三ツ扇の紋幕をかなぐり上げるや、たたたたたとそこへ駈け現われて来た一人は、黒絖龍文くろぬめりゅうもんの小袖にたすきを綾なし、青月代あおさかやきに白鉢巻をキリッと締めて
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青月代あおさかやきが、例の色身いろみに白い、ふっくりした童顔わらわがお真正面まっしょうめんに舞台に出て、猫が耳をでる……トいった風で、手を挙げて、見物を制しながら、おでんと書いた角行燈をひょいと廻して
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それもえ冴えとした青月代あおさかやきのりりしい面に深くぐいとえぐり彫られて、凄絶と言うか、凄艶と言うか、ちらりとこれを望んだだけでも身ぶるい立つような見事さでした。
幕のはじから、以前の青月代あおさかやきが、黒坊くろんぼの気か、俯向うつむけに仮髪かつらばかりをのぞかせた。が、そこの絵の、狐の面が抜出したとも見えるし、古綿の黒雲から、新粉細工の三日月が覗くともながめられる。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青月代あおさかやきを小判型にぐっとそりあげたぐあいは、お奉行からのお差し紙にもそれと明記してあったとおり、紛れもなくどこかの藩のろく持ち藩士たることは、ひと目にして明らかです。
退屈男の青月代あおさかやきも冴え冴えとして愈々青み、眉間みけんに走る江戸名代のあの月の輪型の疵痕もまた、愈々美しく凄みをまして、春なればこそ、京なればこそ、見るものきくもの珍しいがままに
音蔵のうちへ駆けこんでいったら、裏口からもばたばたとあの町人らしい足音が飛びこんできやがってね、と思ったら、表口へぬっと顔が出たんで、さては青月代あおさかやきかとよくよくみたら黒い頭なんだ。