離亭はなれ)” の例文
すると、彼方あなたに静かな灯影ほかげを見せていた二棟つづきの離亭はなれ。その一方の障子がスーッと開いて、銀のような総髪白髯の一人の老人が
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ココア色をした小鳥が離亭はなれの柱に、その朱塗の籠のなかで往き来し、かげは日影のひいたあたりにはう無かった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しかもかの駒込の奥深き一植木屋の離亭はなれ借りたる時ばかり、やさしくも親しき待遇もてなしけし事はあらず、と。我しづかに思へらく、しかるか、然るか、あゝれ実に然らむ也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
離亭はなれ、厩舎、望楼ものみ台、そういう建物が厳しく、あるいは高くあるいは低く、木立の上に聳え木立の中に沈み、月光に光ったり陰影かげに暗まされたりして、宏大な地域を占領している。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おそらく、侍部屋の一つにまだ起きていた早川主膳は、池向うの離亭はなれに聞えた藤夜叉の叫びも耳にしたことにちがいない。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
植木屋の離亭はなれを借りて親切なる待遇を得たりとのみ云はゞ、誰かその偶然なる一事に、しかく深奥の教訓ありと思ふものあらむや。しかも世に真に偶然なるの事はなし。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
又八はその無門の門を通って中へ入り、秋草の中に埋まっている離亭はなれ母屋おもやをながめて、ふと玉葉集の中にある西行の
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、いくらたたずんでいても、離亭はなれの内は、それきり何の気配もしない。すべてはそれで終ったように感じられる。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本能やりばなき、血のなかのものを、義貞もいま、三条高倉邸の離亭はなれの一とうに照らして、みずからの身に見ていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄の考えを、正季はまだ訊いてもいないが、ともあれ、急げとのことに、自身、離亭はなれの通い戸を、どんどんと打ち叩いた。——内の二人が、驚くほどに。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、手前は退がりますが、殿が離亭はなれの内でお待ちです。どうぞ、彼方の渡りから、山吹の内へおすすみを」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのたもとを惜しむかのように、晁蓋もともに裏庭の廊を渡ってきながら、離亭はなれへ向って、三名の者の名を呼んだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、此家ここへは阿佐ヶ谷神楽かぐらの連中という触れ込みで来たわけだ。向うの離亭はなれにゃ、まだ四、五人の連れもいるし、何しろ構えも厳重だから、しばらく様子を
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
離亭はなれの茶席へ誘ったところで、理平は、伯のふところにはいって、商法にかかるつもりだった。が、その胸算を切り出さないまえに、伯は奈都子のたてた薄茶をひと口のんで
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——ここは離亭はなれです。呼ぶまではたれも来るなと、家臣どもも遠ざけてござりますれば」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女中の返辞が長く通る——するすると、奥の部屋から橋がかりの離亭はなれへ女中が渡って行く。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御方はただ頷いて、ススススと、橋がかりの離亭はなれを出て、大座敷から玄関へとさしかかる。ともうそこへは、梅茶亭の主人あるじ夫婦から召使がズラリと並んで、下へも置かぬ送りよう。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの離亭はなれにて、お待ちしておりますれば、どうか明朝には、い御返辞を」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なに食わぬていで、晁蓋はその足で、離亭はなれに休んでいる雷横らいおうの席へ顔を出した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいつけておいたように離亭はなれのほうへお通し申しあげておいたろうな」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
離亭はなれの内でも
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)