隠形おんぎょう)” の例文
旧字:隱形
小太刀こだちをとっては、伊那丸いなまるはふしぎな天才児である。木隠龍太郎こがくれりゅうたろうも戒刀の名人、しかも隠形おんぎょうの術からえた身のかるさも、そなえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、お寺の床の間には似つかわしからぬもので、今までお銀様が気がつかなかったのは、燈火あかりの具合で、隅の柱に隠形おんぎょういんをむすんでいたからです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
松明たいまつは再びとぼされたが、広い穴の中に何者の影も見えなかった。幾ら𤢖でも隠形おんぎょうじゅつを心得ている筈はない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
南蛮渡来の法術を使い遁甲とんこう隠形おんぎょう飛行ひぎょう自在、まだ弱冠の身でありながら、すで総帥そうすいの器を有し、数年前より御嶽山おんたけさん上にとりでを設けて武威を張る御嶽冠者みたけかじゃと申すお方!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこは放しがいよ。外にねぐらがないんですもの、もとの巣へ戻ると思うから平気なもの。それとも直ぐ帰れなんのって、つれに来れば、ちょっと、隠形おんぎょうの術を使うわ。——一座の花形ですもの。
女人にょにんに愛楽を生じたためしは、古今の聖者にもまれではない。大幻術の摩登伽女まとうぎゃにょには、阿難尊者あなんそんじゃさえ迷わせられた。竜樹菩薩りゅうじゅぼさつも在俗の時には、王宮の美人をぬすむために、隠形おんぎょうの術を修せられたそうじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鞍馬くらまおくにすんではいるが、ある時は、都にもいで、またある時は北国の山、南海のはてにまで姿を見せるという、稀代きたいなご老体で、拙者せっしゃ刀術とうじゅつ隠形おんぎょうの法なども
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松遁しょうとんの術をでも使い出して、しばし太夫の位の下に隠形おんぎょういんを結んだかと思われる。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はひらり身を躍らせると高く空へ飛び上がったが隠形おんぎょうの術とでも云うのであろう、足の方から自然に消えた。しかし、相手は妖精である。人間に対しては隠形の術でも彼らには一向効能ききめがない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、あるいは鳥に対する隠形おんぎょう一術ひとてであろうも計られぬ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あやしいことはさらにない。ありふれた木遁もくとん隠形おんぎょうでちょっときさまをからかってみたのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市中を巡邏じゅんらして、このところに通りかかったのだが、この安全地帯の、柳の木の前の高札場の下の、つまりがんりきの百蔵が只今、生得の隠形おんぎょういんを結んでいるところの、つい鼻の先まで来て
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
がんりきの百という野郎が、芝居気たっぷりで隠形おんぎょうの印を結んだ木蔭。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
隠形おんぎょうの印も結びもすっかり崩して、まず最初から、飲みたくて堪らなかった水を飲もうとして、井戸の方へそろそろと歩んで行くと、その井戸側から、人が一人、ひょろひょろとい出して来たには
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)