附根つけね)” の例文
ふと視線が合うと、蝶子は耳の附根つけねまで真赧まっかになったが、柳吉は素知らぬ顔で、ちょいちょい横眼よこめを使うだけであった。それが律儀者りちぎものめいた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
我見しにこゝにひとり人の叉生またさすあたりより股の附根つけねを切りとるのみにて形琵琶に等しかるべき者ありき 四九—五一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それは「鹿沼帚かぬまぼうき」の名で何処でも知られているものであります。附根つけねがふくらませてあって、色糸や針金でかがり、ゆったりした大型のほうきであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
額から始まって、平たい頬を塗って、あごから耳の附根つけねまでさかのぼって、壁のように静かである。中にひとみだけが活きていた。くちびるべにの色を重ねて、青く光線を反射した。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は、もはやうにことれていた。そして、左の頸と肩との附根つけねの所に、鋭い吹矢ふきやが深々と喰い込んでささっている。おびただしい出血は、それがためのものであるらしい。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼等は、頭をうなだれ尾を震わせながら、折々は、四肢の附根つけねのところで潰れはしないかと思われるくらいに、足掻あがいたりつまずいたりして、どろどろの泥の中を進んで行った。
かねて大人でも十分の二グラム飲めば命はないと聞かされて居るので、無益とは知りながらかう聞いて見た。お末は黙つたまゝで、食指を丸めて拇指の附根つけねの辺につけて、五銭銅貨程の円を示した。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
正的まともに町と町がくっついた三辻みつつじの、その附根つけねの処を、横に切って、左角の土蔵の前から、右の角が、菓子屋の、その葦簀よしず張出はりだしまで、わずか二間ばかりのあいを通ったんですから、のさりとくのも
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)