間誤まご)” の例文
それから、この正月、どつかの店で、メリンスの端ぎれを六尺ばかり買つて来て、勿体らしく差出されたのには、少し間誤まごついたわ。
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
伸子たちが住んでいる建物の板囲いからいくらも来ていないのに、いきなり素子からそうきかれて、宮野は間誤まごついたらしかった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
支械の林はどっと喊声かんせいを挙げた。元三はいよいよ間誤まごついて大きな目をぐりぐりさせ、自分の身をどう始末していいか天手古舞いをした。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
同時どうじに、いままで世間せけんむかつて、積極的せききよくてき好意かうい親切しんせつ要求えうきうする勇氣ゆうきたなかつたかれは、突然とつぜんこの主人しゆじんまをいでつてすこ間誤まごつくくらゐおどろいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ちっとも間誤まごつきはしなかった。彼は電気のついていない奥の間へ、ずんずん歩いていった。台所では、千鶴子がガスに火をつけている音が聞こえた。
二人の盲人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
孤独で内気な、その中学生に読みをあてれば、どんなに彼が間誤まごつき、真※まっかになるかをちゃんと呑込のみこんでいたのだ。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それに裁判長には権柄ずくで訊問されるし、少しでも間誤まごつこうものなら厳しく追求せられる。反対の立場にある弁護人から皮肉な質問を浴びせられる事もある。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「ああ、そうですな」少し間誤まごつきながらそう答えた時の自分の声の後味がまだのどや耳のあたりに残っているような気がされて、その時の自分と今の自分とが変にそぐわなかった。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
さりとて問い詰められては間誤まごつくようなこともあるだろうし
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
青い瞳の女も中々心得たものでたどたどしい日本語ながら、自分は漫遊に来ていて間誤まごついていると云ってやんわり笑った。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
そこへ出て来た老婦人は、小萩の母で、うつかりすると、こつちも間誤まごつくくらいに、けこんでいた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
吉峰さんのおばさんに「いつお帰りです。あしたお帰りですか」とかれて、信子が間誤まごついて「ええ、あしたお帰りです」と言ったという話だった。母や彼が笑うと、信子は少し顔をあかくした。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
さりとて問ひ詰められては間誤まごつくやうなこともあるだらうし
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
人間は惰力で活きてゐるものだとは思つてゐたのだが、反抗反抗で活きてゐる人間が、ぱつたり手応へのない処へぶつかると、かうまで間誤まごつくものとは知らなかつた。
屋上庭園 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
とはいえ、下りたとたんに少々間誤まごついてしまった。
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
突然、かう出られて、奥村圭吉は、息がつまるほど間誤まごついた。
花問答 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)