閉塞へいそく)” の例文
その場合に前述の甲型の人間が多いと、階段や非常口が一時に押し寄せる人波のために閉塞へいそくして、大量的殺人現象が発生するのである。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
広瀬中佐は日露戦争のときに、閉塞へいそく隊に加わってたおれたため、当時の人から偶像アイドル視されて、とうとう軍神とまであがめられた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クリストフはこの強健な嫌悪けんおを事とする危機を通っていた。自分の一身を閉塞へいそくしてる不消化物を本能的に排出していた。
下水道の浚渫しゅんせつはまったく豪雨にうち任せてあったが、雨水はそれを掃除するというよりも閉塞へいそくすることの方が多かった。
そこで、さしも全権をふるっていたこの連中が、一時に閉塞へいそくして、ことごとく船の底へ下積みにされてしまいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「驚いたろう。俺は、ここに二十年あまりもいる。万一有事のとき、ナイルの水源を閉塞へいそくするためにかくれている。俺はドイツ人でバイエルタールという男だ」
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
毒々しい濁り水のために、人事のすべてを閉塞へいそくされ、何一つすることもできずむなしく日を送っているは、手足も動かぬ病人がただ息の通うばかりという状態である。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
暫くして彼は、男の子の母親が赤子に添い寝をしていて乳房ちぶさ鼻孔びこう閉塞へいそくさせたのだと近所の人から教わった。そんな殺し方は彼には初耳だった。が、なるほどと思った。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ブラームスの熱心な紹介者となり「これこそはベートーヴェンの第十シンフォニーに当るものだ」という警句をき、自ら指揮棒をって反対者の大群を閉塞へいそくさせてしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
男は、それに、すくみを覚えた。拒否の心理は、意気地なく、男の心の内がわに閉塞へいそくされる。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人は無制限に無遠慮にその力を用いてはならぬ。それはいつも規定の美に止まるであろう。単なる定則は美の閉塞へいそくに過ぎない。機械が人を支配する時、作られるものは冷たくまた浅い。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
我々はいっせいに起ってまずこの時代閉塞へいそくの現状に宣戦しなければならぬ。
常に宇宙の深遠なる悲愁、神秘なる歓楽を覚ゆるものから、当代の愚かしき歌物語が、野卑陳套やひちんとうの曲を反復して、たとへば情痴の涙に重き百葉の軽舟、今、芸苑の河流を閉塞へいそくするを敬せざるのみ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
旅順における第一回の閉塞へいそくの記事が新聞紙上に載せられてある日であった。清三は喜んで返事を出した。金曜日には行くという返事が折りかえして来る。清三は荻生さんにも来遊をうながした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
燃料を満載してある上に、しかも発火すると同時に出口が人間で閉塞へいそくし、その生きたせんが焼かれる仕掛けになっているからである。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ある者にとっては、戦争である。甲にとっては、過去の破壊であり、君主の放逐である。乙にとっては、教会の劫奪きょうだつである。丙にとっては、未来の閉塞へいそくであり、自由の破滅である。
鼻を閉塞へいそくして口ばかりで呼吸の用を弁じているのはズーズーよりも見ともないと思う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしこれと同じ要領でデパート火事の階段に臨むものとすれば階段は瞬時に生きた人間の「せん」で閉塞へいそくされるであろう。
火事教育 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女が後を向いた様子、電気を消してあがくちの案内を閉塞へいそくした所作しょさ、たちまち下女を呼び寄せるために鳴らした電鈴ベルの音、これらのものを綜合そうごうして考えると、すべてが警戒であった。注意であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、それも何千人と折り重なっては困るであろうし、また満員のデパートに急な火が起これば階段が人間ですし詰めになって閉塞へいそくしてしまう恐れがある。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)