門戸もんこ)” の例文
その文書の大意は——我はここにとし久しく住んでいて、家屋門戸もんこみな我が物である。そこへ君が突然に入り込んで済むと思うか。
子にもせよ甥にもせよ、独美の血族たる京水は宗家をぐことが出来ないで、自立して町医まちいになり、下谷したや徒士町かちまち門戸もんこを張った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うたわせたりして常に引き立ててやっていたされば検校き後に門戸もんこを構えるに至ったのは当然であるかも知れぬ。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
表通りに門戸もんこを張ることの出来ぬ平民は大道と大道との間におのずから彼らの棲息に適当した路地を作ったのだ。
実にその労と申しては田圃でんぽ悪莠あくゆうを一回芟除さんじょするよりもなおやすきことにて、その器械と申すはわが邦俗ほうぞく新年門戸もんこかけ注連縄しめなわのごとく、羊毛にて製したるものにて
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
「へえ、ありがとうございます」と云って、舌でも出したらしい気はいであった。門戸もんこあけっぱなしで、人近く自然に近く生活すると、色々の薄気味わるい経験もした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
切て勘當かんだうせしにかれ方々はう/″\彷徨さまよふうち少く醫師の道を覺え町内へ來て山田元益と表札へうさつ門戸もんこを張れどももとよりつたな庸醫よういなれば病家はいと稀々まれ/\にて生計くらしの立つほど有らざれば内實ないじつ賭博とばく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
門跡の寝室近く妙齢の生娘きむすめを臥せさせもらい、以て光彩門戸もんこに生ずと大悦びした。
うらみをなさんと一念此身をはなれず今宵こよひかの家にゆかんと思へどあるじつねづね観音を信じ、門戸もんこ二月堂にぐわつだう牛王ごわうを押し置きけるゆゑ、死霊しりやうの近づくことかなはず(中略)牛王をとりのけたまはらば
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
葉子の父は日本橋ではひとかどの門戸もんこを張った医師で、収入も相当にはあったけれども、理財の道に全く暗いのと、妻の親佐おやさが婦人同盟の事業にばかり奔走していて、その並み並みならぬ才能を
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そういう時代、そういう場所ではあるが、溝口医師は相当の病家を持って相当の門戸もんこを張っていた。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)