錺屋かざりや)” の例文
前は二軒長屋の平屋ひらやで、砲兵工廠ほうへいこうしょうに勤める人と下駄の歯入れをする人、隣家は宝石類の錺屋かざりやさんで、三軒とも子供が三、四人ずついた。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
とうとう一寸いっすん逃れを云って、その場は納まったが、後で聞くとやはりその女は、それから三日ばかりして、錺屋かざりやの職人と心中をしていた。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
錺屋かざりやに頼んで、もう一つの鍵を造らせたに違ひなく、その鍵は身につけて出た筈はないので、座敷牢の中に隱してゐなければなりません。
それで、今度は普通のチャボの、つまりせいの低い方のを探したいと思い、御成街道おなりかいどう錺屋かざりやに好いのがいるという話を聞いたので、また出掛けて行きました。
「親分、さかなはやっぱり大きいようです。辻倉の若い者に訊いたら、ここのおかみさんを乗せて行った先は、本所のももんじい屋の近所の錺屋かざりやだそうですよ」
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
税関吏は青め切って完全に恐れ入ってしまったが、しとやかなはずの伯爵夫人が錺屋かざりやと洗濯屋の娘の本性を現して、手錠をめられた口だけは達者に、ソノ猛ること猛ること!
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「ちえっ、手前の話なんか聞きたかねえや」と目玉をひんむいた錺屋かざりやの子が叫んだ。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
又錺半さんという錺屋かざりやの職人がよく出入りしていたが、非常によい腕をもった人で、観音様の御堂に上っている絵馬のようなお供えの額を作って、その小さな一つを今でも私は父に貰って持っている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
錺屋かざりや、錺職をもって安んじているのだから、丼に蝦蟇口がまぐち突込つっこんで、印半纏しるしばんてんさそうな処を、この男にして妙な事には、古背広にゲエトルをしめ、草鞋穿わらじばきで、たがね鉄鎚かなづち幾挺いくちょうか、安革鞄やすかばんはすにかけ
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ……おおかた錺屋かざりやさんで何かやっているんでしょうよ」
菊人形 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
大阪南区畳屋町に錺屋かざりや源兵衛げんべえという人があった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いや、まだある。向う隣りの按摩あんまの伜の勇三郎が、錺屋かざりやへ入つたのを見たものが、町内だけでも三人は居るんだ」
芸は錺屋かざりやつちの音と「ナアル」(成程なるほどの略)といふ言葉とを真似まねるだけなり。
金銀細工は錺屋かざりやの職ですが、これも普通の錺屋には出来ない芸です。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
比べて見ると、輪の大きさ、足の長さは違ひますが、先は全く同じ寸法で、お里の持つてゐる鍵を見本にして、錺屋かざりやに造らせたものに違ひありません。
お隣りの錺屋かざりやとの境になつて居る板仕切は、嚴重過ぎるほど嚴重で、覗くほどの隙間もなく、所々にハメ木をしたり板を張つたり、神經質にふさいであるのです。
四人の女を殺した四本の簪を役所から借り出して、顏見知りの錺屋かざりやに鑑定して貰ふと、この始末です。
勝太郎がお喜代を救ひ出したさに、あのあぶれ浪人の檜木風之進に頼んで鍵の型を取らせたと知つて、近所の錺屋かざりやを當つて見て、錺徳に同じ鍵を作らせたのだらう。
續いて平次は、江戸中の錺屋かざりやを、しらみつぶしに調べ始めました。贋の小判の精巧な手際を見ると、これはどうしても素人の細工ではなく、相當腕の良い錺屋の仕事と睨んだのです。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
田屋三郎兵衞が飯田町に住んで本名をそのまゝ錺屋かざりやをして居ることを、昔の藩中の方から教へられ、同じ中坂のこの家に住んで、敵三郎兵衞を狙つて五年といふ月が經ちました。
すべてが金兵衞と番頭の惣吉の惡企わるだくみで、樽屋の身上の危なくなつたのを救ふために、惣吉が曾て錺屋かざりやに奉行したことがあるので、贋金造りを計畫し、更に精巧なものを作る積りで
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「何んだ、殺し?——湯島なら錺屋かざりやぢやないか」
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
錺屋かざりやを當つて見ませうか」