遠島えんとう)” の例文
だめです。これから自首して、もし遠島えんとう牢舎ろうしゃぐらいで、生命いのちがありましたら、もう一ぺん生れ直します。どうかごきげんよう
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万一の事でもあろうものなら、手前なんぞは先生とはちがって虫けら同然の素町人すちょうにんゆえ、事によったら遠島えんとうかまず軽いところで欠所けっしょまぬかれまい。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
高瀬舟たかせぶねは京都の高瀬川たかせがわ上下じょうげする小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島えんとうを申し渡されると、本人の親類が牢屋敷ろうやしきへ呼び出されて、そこで暇乞いとまごいをすることを許された。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ことごとくこれを打払い、我より行かんとするものは、悉くこれを禁じ、その禁を侵すものは、これを遠島えんとうし、これを殺戮さつりくし、はなはだしきは磔刑たっけいに処し、しこうしてさらに五百石以上の軍船
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あの人のことはもういい、賭場とばで二人を刺し、一人を殺した。ながいあいだの博奕兇状もしらべあげられたし、たとえ死罪にはならなくとも、佐渡へ送られるか遠島えんとうはまぬがれまい。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長平は無論に死罪でしたが、長吉の方はまだ子供でもあり、どこまでも親のかたきを討つつもりでやった仕事ですから、かみにも御憐愍ごれんびんの沙汰があって、遠島えんとうということで落着らくちゃくしました。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まさか、お追放ついほうとはゆかないけれど、獄門ごくもんのところを遠島えんとうぐらいにはなるのは御定法ごじょうほうとされている。——つまらない眼にったのはおまえさんさ。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしてそは全く遠島えんとうに流され手錠てじょうの刑を受けたる卑しむべき町絵師の功績たらずや。浮世絵は隠然として政府の迫害に屈服せざりし平民の意気を示しその凱歌がいかを奏するものならずや。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すべて革命的の気焔きえんあおぎたる『柳子新論りゅうししんろん』の著者山県大弐が大不敬ふけい罪の名義によりて、死罪申附けられ、その徒藤井右門は獄門ごくもんけられ、竹内正庵(式部)が遠島えんとう申し附けられたるが如き
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
他人に渡すのは業腹ごうはらだから、山岡屋さんの手にげて貰って、石塔せきとうの一つも建って貰えれば有難いし、運よく、遠島えんとうとでもなって、娑婆の風にふかれる日があったら、そのうちの幾分いくぶんでも
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠島えんとうにいっている——などということまで、隠さないのである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)